手のひらで溶ける金属ガリウム、米が増産で中国に対抗

ガリウムのサンプル

ガリウムは銀色の金属だが、融点が低く、手のひらに置くと溶けてしまうという特異な性質を持つ。

元素周期表に長く名を連ね、軍事システムや自動運転車、ノートパソコンの急速充電器などに使用されているが、注目されることは少なかった。そして、世界に供給されるガリウムのほぼ全てが中国産だ。

潤沢な資金を持つ投資家、つまり米政府が、この状況を変えようとしている。米国内外の工場に数億ドルを投じ、独自のガリウム供給網を構築することで、中国からの輸入依存を減らそうとしているのだ。

トランプ政権が目標に掲げるプロジェクトの一つが、ウエスタンオーストラリア州のワガーアップでのものだ。米アルミニウム大手アルコアは1980年代からそこで精製所を運営しており、ボーキサイトを処理してアルミナを製造している。ボーキサイトには微量のガリウムも含まれるため、アルコアはそれを抽出する工場を建設する予定だ。

米政府はこの取り組みに資金を提供する計画で、オーストラリアと日本も参加する。アルコアによると、各国政府はその見返りとして、この工場で生産されるガリウムの一部を受け取る。同工場は最終的に年間約100トンのガリウムを生産する見込みで、これは世界のガリウム需要の10%に相当する規模だという。ガリウムの2024年の世界生産量は760トンだった。

アルコアのウィリアム・オプリンガー最高経営責任者(CEO)はインタビューで、「当社は長年、自社の処理工程においてガリウムを抽出できることを十分認識していた」と語った。「世界が今よりも大幅に多くのガリウムを必要とし、かつ採算が取れるのであれば、他の精製所でも生産を行うことは可能だ」

ガリウム増産への動きは、防衛・自動車・ハイテク産業向けにレアアース(希土類)や重要鉱物を確保しようとするトランプ政権の取り組みの一環だ。例えば米国は、リチウムやコバルト、ニッケルといった製品の戦略的備蓄を支援するために数十億ドルを投じている。

アルコアのアルミナ精製所(豪ウエスタンオーストラリア州ワガーアップ)内を移動するボーキサイト鉱石。同社はアルミナ生産工程中にガリウムを回収する計画だ

ゆがめられた市場

重要鉱物の世界生産の大半を占める中国は、2023年にガリウムの輸出規制を導入し、翌年には米国へのガリウム輸出を全面的に禁じた。中国は後にこの措置を停止したが、26年中に再び実施する可能性がある。

米国などの政府当局者は今月4日のイベントで、重要鉱物の供給を拡大し、中国への依存を減らすための投資を約束した。

JD・バンス米副大統領は「原形をとどめないほど市場がゆがめられてしまった明確な兆候が見られる。戦略的投資を罰し、多様化を罰する市場に変貌した」と述べた。

中国国外でのガリウムの指標価格は、過去2年間でおよそ3倍になった。アーガス・メディアによると、1月の平均価格はキロ当たり約1572ドルと過去最高を記録した。

ガリウム価格

ガリウムは窒素やヒ素と処理され、高性能半導体の基板の材料となる。半導体において、ガリウムは高電圧に対応できる上、シリコンよりも耐熱性と耐湿性に優れている。携帯電話やノートパソコン以外にも、宇宙空間での放射線から部品を保護するため、人工衛星にも使用されている。

米国は自国への投資を通じて国内のガリウム供給を増やそうとしている。国防総省と民間投資家は、韓国の非鉄金属大手・高麗亜鉛が米国内の亜鉛鉱山と製錬所を取得できるよう、同社との合弁事業に19億ドル(約2900億円)を出資した。

高麗亜鉛はテネシー州の工場で、亜鉛鉱石の精製過程で生じる残渣(ざんさ)から、ガリウムと他の約12種類の重要金属を抽出する計画だ。さらに、47億ドルの民間および政府融資を受け、金属の複雑な分離を行う製錬所の建設費用の一部に充てる。

テネシー州の事業は、2030年から年間最大54トンのガリウムを生産する見込みだ。

高麗亜鉛が取得するテネシー州クラークスビルの工場。亜鉛浸出プロセスでの再利用に向けてマンガンを回収するセル洗浄オペレーター(2023年)

赤泥

別のガリウム回収事業が、ルイジアナ州にある米国内唯一のアルミナ精製所で進行している。アルミナ精製企業アトランティック・アルミナは、ニューオーリンズとバトンルージュの間に位置する施設で、アルミナの生産を拡大し、ガリウム処理設備を追加したい考えだ。

アトランティック・アルミナは長年、ボーキサイトをアルミナに変換する際に残る、いわゆる赤泥を蓄積してきた。だが同社には、赤泥からガリウムなどの物質をさらに抽出する能力がなかった。そこに国防総省が登場した。政府は同社に1億5000万ドルを出資し、同社が構想する4億5000万ドルの拡張・ガリウム事業を支援している。同社は年間約50トンのガリウムを生産する見通しだ。

フィンランドの重要鉱物コンサルティング会社ロブジョクによると、世界のガリウム需要は2030年までに約24%増加すると予測されている。米国でガリウムを製造するコストは中国での製造コストよりも20%以上高くなりそうだという。

米コロラド鉱山大学の経済学教授であるイアン・ラング氏によると、米国などの国々によるガリウム増産の動きは供給過剰を招きかねない。「市場は非常に小さいため、崩壊するだろう」

中国は、アルミニウムの生産能力を猛スピードで拡大し、アルミナ精製の一環としてガリウムも抽出したことで、ガリウム市場を支配するようになった。

一部の政策当局者やアナリストによると、中国はその影響力を利用して重要鉱物を市場に過剰供給しており、他国が国内生産に向けた投資を行う意欲をそいでいる。複数の中国企業は、責任を持って行動していると主張し、増産に問題はないとの立場を示す。

ガリウム価格の上昇が加速した背景には、新型コロナウイルスの流行時と収束後に起きたサプライチェーン(供給網)の目詰まりと、中国が近年、輸出規制を活用し始めたことがある。

オーストラリアは1月、12億豪ドル規模の重要鉱物戦略的備蓄でガリウムを優先的に取り扱うと発表した。

オーストラリアのマデレーン・キング資源相は今月4日、「この産業を発展させるために、どのように連携・協力するかについては、多くの調整が必要だ」と述べた。「20年前か30年前にやっておくべきだった」