りくりゅうペアの金メダルを支えた、"折れない"「国産ブレード」の正体…創業99年、名古屋の特殊鋼メーカーが手がける【ミラノ・コルティナオリンピック】

金メダルを獲得したりくりゅうペア。
開催中のミラノ・コルティナ冬季オリンピック(以下ミラノ五輪)で、2月17日早朝(日本時間)のフィギュアスケートペアに出場した、“りくりゅうペア”こと三浦璃来選手・木原龍一選手が金メダルを獲得した。
同種目でのメダル獲得は日本史上初の快挙だ。前日16日のショートプログラム(SP)では5位スタートだったが、フリーで逆転した。フィギュアスケートでは日本勢のメダルラッシュが続いており、男子の部では鍵山優真選手と佐藤駿選手が、それぞれ銀メダルと銅メダルを獲得した。
フィギュアスケート日本代表選手のうち、りくりゅうペアと2大会連続で銀メダルを獲得した鍵山選手が、名古屋の老舗企業が作る「国産の特殊鋼ブレード」で滑走したことをご存じだろうか。鍵山選手とともに出場した三浦佳生選手も、同じメーカーのブレードを使用している。
製造を手がけるのは、名古屋の老舗・特殊鋼加工メーカー、山一ハガネだ。開発担当者に取材を進めると、これまでの常識を覆す画期的な製造方法の採用や、製造の背景にある「止まらない製造ライン」を実現する経営判断が見えてきた。
地元出身のオリンピック選手との出会いで開発
山一ハガネは、創業99年を迎える1927年創業の老舗企業。鉄にさまざまな素材を組み合わせる「特殊鋼」を専門としている。

創業99年、2027年に創業100年を迎える山一ハガネ。従業員数211人(2025年3月時点)、年商150億円(2025年3月期)。
2013年の開発着手以降、地元出身のオリンピック選手が使用したのを機に「折れにくい」など耐久性の強さが口コミで広まり、10年余りで全日本選手権(2025年12月)に出場した男子選手の半数以上が着用する“トップスケーター御用達品”となった。
取材に応じた開発担当者の石川貴規マネージャーによると、愛知県という土地柄、本業の顧客の大半はトヨタ自動車系の部品を製造する企業で、特殊鋼の分野では「中部地方で最大シェアを誇る」という。
山一ハガネとして初のオリンピックとなった前回2022年の北京大会では、同社製ブレードを着用した宇野昌磨選手(男子シングル)が銅メダルを、りくりゅうペアらも出場した団体戦でも銅メダルをそれぞれ獲得し、その実力は世界の舞台ですでに証明されている。
ミラノ五輪に出場中の選手のうち、鍵山選手とりくりゅうペアとは用具契約を交わし、専用ブレードを提供している。

北京五輪で山一ハガネ製ブレードでメダルを獲得した宇野昌磨氏。
ブレード開発の直接のきっかけは、バンクーバーオリンピック(2010年)に出場した元日本代表の小塚崇彦氏との偶然の出会いだった。話は小塚氏がソチオリンピック(2014年)出場を目指す2012年にさかのぼる。
同社の会計士の親族が小塚選手と面識があり、同社の3D測定事業の一環で保有する計測器でスケート靴注文時の足型を取ろうと、小塚氏自ら来社した。
「小塚さんが実際に使っている海外製ブレードを見せてもらうと、曲がったり折れたりしている状態だった。そこからブレードの話になり『うちは特殊鋼を扱っているし、その加工技術もある。一度作ってみませんか』と提案したのが始まり」

バンクーバー五輪に出場した小塚崇彦さん。
山一ハガネの石川マネージャーは当時をこう振り返る。小塚氏が使ったスケート靴を見て、破損の原因が金属パーツ同士の溶接にあると突き止めた。一般的にスケート靴は靴底の金属板とブレード、ブレードを固定する金具の大きく3点で構成されることが多い。
イギリスやアメリカなどの海外製品はブレードと靴を別々に溶接で接合しているため、接合箇所の耐久性が低い。近年は4回転ジャンプを多用する選手も増えていることから、着地時の衝撃に接合箇所が耐えきれず、破損するケースが増えていたのだ。
石川マネージャーによると「ジャンプの練習量が多いトップ選手になると、破損で1カ月に2〜3回ブレードを交換することもある」という。溶接時のズレで個体差が生じ、品質が安定しないという課題もあった。
特殊鋼の塊から削り出し、「日本刀」着想の熱処理で加工
海外製ブレードの課題を克服するべく、山一ハガネ製のブレードは画期的な製造法を採用した。それは「削り出し」だ。