じつのところ、他の人には教えたくない。トレーダーやエリート銀行マンがこぞって学ぶ、驚愕の数学世界

投資や資産運用のプロは「金融数学」という武器を持っています。彼らは決して相場観や経験則だけで仕事をしているわけではありません。むしろ優秀なプロであればあるほど「金融数学」の知識を知り尽くしています。

「判断に迷ったらなぜインデックス投資がおすすめなのか?」

実は、こんなことも金融数学によってしっかり証明されているのです。プロが当たり前のように使っている金融数学は、確率論、統計学、微積分学、数値解析など、一部高度な数学を駆使しますが、構造そのものは決して難しくありません。

株式・債券・デリバティブなどの金融商品の理論価格を推定するための「プライシング理論」、限られた資金をどの資産にどれだけ配分すべきかを判断するための「ポートフォリオ理論」、損益のブレを定量化してコントロールするための「リスク管理」、この3つが金融数学のキモの部分です。そして、それらの理論は「無裁定条件」というたった一つの基本原理の上に立っています。

これらの構造をしっかり押さえれば、複雑な計算はわからなくても「投資や資産運用の基礎となる金融はこうやって成り立っているのか」という全体像がわかります。

高度な数学・物理学・プログラミングなどの知識を駆使して金融市場や商品を分析するスペシャリストをクオンツと呼びます。素粒子物理学の研究者から金融界へ転身した日本有数のクオンツである著者が、金融に使われる数学をわかりやすく紹介した『金融数学入門』(講談社・ブルーバックス)。興味深いトピックの数々をこのシリーズで紹介していきます。

第1回となる今回は、そもそも金融数学とはどういうものかを本書「はじめに」からご紹介します。

じつのところ、他の人には教えたくない。…トレーダーやエリート銀行マンがこぞって学ぶ、「驚愕の数学世界」

*本記事は、『金融数学入門』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

合理的な投資判断を行うための共通言語

金融市場は、私たちの都合に合わせてはくれません。朝起きたら株価が急落している。昼の会議中に為替が走り出す。夕方には金利が急上昇するーー そんな「変化の速さ」と「先の読めなさ」に向き合うために、私たちは何をよりどころにすればいいのでしょうか。

その答えのひとつが金融数学です。

金融数学は、相場観や経験則に頼らず、合理的な投資判断を行うための共通言語を与えてくれます。数学的に根拠のある方法で価格を見積もり、リスクの大きさを評価し、資産配分を決める。それが信頼のおける投資行動につながります。

広大な金融の世界を体系的に解き明かす

金融数学は、理論と実践が絶えず交錯する学問です。一見すると、実務に合わせていろいろな数学分野をパッチワークしたものに見えるかもしれません。実際に金融数学は、確率論、統計学、微積分学、数値解析など、幅広い数学の領域の組み合わせでできています。

しかし、すべては「無裁定条件」というたった1つの基本原理の上に立っています。

「金融市場でタダ飯は食えない」というこの極めて素朴な要請から、価格付け(プライシング)や資産配分(ポートフォリオ)などの理論が組み立てられていくのです。

私は大学院で物理学を専攻し、欧州原子核研究機構(CERN)の素粒子実験プロジェクトに参加していました。その経験から強く感じるのは、金融数学は「少数の基本原理から出発する」という点で物理学とよく似ていることです。

たとえば相対性理論は、「光速度不変」などの公準から出発して、時空の謎を解き明かしていきます。金融数学も同じく、「無裁定条件」を核とし、「完備性」や「効率的市場仮説」といった追加的な仮定を組み込むことで広大な金融の世界を体系的に解き明かしていきます。

変化の激しい市場でも、意思決定できるようになる

この度、刊行された『金融数学入門』では、金融数学を構成する各種の論点を以下の3つのテーマに整理して説明しています。

  • プライシング理論:株式・債券・デリバティブなど金融商品の理論価格を推定するための理論
  • ポートフォリオ理論:限られた資金をどの資産にどれだけ配分すべきかを判断するための理論
  • リスク管理:損益のブレを定量化しコントロールするための理論

重要な役割を果たす「無裁定条件」・「完備性」・「効率的市場仮説」という3つの基本仮定と各章は、「表・『金融数学入門』全体の俯瞰図」に示すような関係にあります(3つの基本仮定そのものは序章、第3章、第7章で、それぞれ解説しました)。いわば、これが『金融数学入門』全体の「見取り図」です。

表・『金融数学入門』全体の俯瞰図

この表を羅針盤として、本書を読み進めていただければ幸いです。表中には専門用語も散見されますが、本編で丁寧に解説しますので心配無用です。

それでは、金融数学の広大な地図を描きにいきましょう。本書を閉じるころには、変化の激しい市場のなかでも、あなた自身の言葉で合理的に、そして自信をもって意思決定ができるようになっているはずです。

金融数学の旅へ、ようこそ。

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今後、『金融数学』で取り上げられた、興味深いトピックを続々とご紹介していきます。まずは、なぜ「相場」は変わるのか、という基本についての解説をお届けしましょう。

金融数学入門

【金融数学の広大な世界を科学的に理解する】素粒子物理学の研究から金融界へ転身した「クオンツ」の著者が、金融に使われる数学をわかりやすく紹介する