【なぜBAKEはヒットを連発できる?】チーズタルト、クッキー缶…あえてバラバラのブランドを作る理由。「効率を捨てる」8割主義の正体

【なぜBAKEはヒットを連発できる?】チーズタルト、クッキー缶…あえて“バラバラのブランド”を作る理由。「効率を捨てる」8割主義の正体
行列のできるバターサンド専門店「PRESS BUTTER SAND」や、焼きたてカスタードアップルパイの「RINGO」。実はこれら全て、同じ会社が手掛けていることをご存じでしょうか? 株式会社BAKEは、なぜ全く異なるテイストのブランドを次々と成功させることができるのか。その裏には、常識を覆す「逆算のモノづくり」がありました。チーフブランディングオフィサーを務める取締役・北村萌さんに、ヒット連発の秘密を聞きました。
コロナ禍で崩れた「1ブランド1商品」の成功法則

株式会社BAKE チーフブランディングオフィサーを務める、取締役の北村萌さん
株式会社BAKEは2013年創業、当初はオンラインのケーキサービスからスタートをした会社です。2014年には1つ目の店舗ブランドである「BAKE CHEESE TART」をローンチ、その後「PRESS BUTTER SAND」「RINGO」など、異なるブランドを次々と誕生させていきました。
「当時はひとつのブランドにつき1商品のみで勝負していく“1ブランド1プロダクト”でブランド展開をしていました」(北村さん)
1種類しか商品がないのはかなり思い切った戦略ですが“1ブランド1プロダクト”にすることで、原材料の仕入れ価格を抑えることができ、店頭での製造オペレーションが効率的になるのだといいます。接客の際も「いくつお買い求めになりますか」と聞くだけ。非常にシンプルです。
「しかしお客様にとって選択肢が少ないことはデメリットでした。毎回チーズタルトを食べたいとは限らない。クッキーが食べたい日もありますよね。日によって変わる多様なニーズにお答えできていない懸念はありました」(北村さん)

オンラインサイト「BAKE the ONLINE」
バラバラだったブランドを「オンライン」で繋ぐ
さらにコロナ禍も大きな転換を迎えるきっかけとなりました。これまでのようにお店を訪れる客が途絶え、人と人が会う機会が激減したことから手土産需要もなくなってしまったのです。そこでECサイトを立ち上げることに。合わせて、これまで同じ会社のブランドだと知られてこなかった各ブランドを繋げることにしたのです。
「コロナ前までは『BAKE CHEESE TART』と『RINGO』の会社が同じだとご存じない方の方が多い状況でした。ECサイトでは全ブランドを買えるようにしたこと、『BAKE Membership Program』という会員プログラムをスタートしたことで、オンラインで買った方に店舗へ訪れてもらえるようになったり、逆に店舗でこれまで買っていた方が次はオンラインで購入してくださったりなど購入の機会を広げることができました」(北村さん)

リブランディングで商品ラインナップが増えた「BAKE CHEESE TART」
2025年には、これまでチーズタルト1商品のみを販売していた「BAKE CHEESE TART」を、数種類のタルトやクッキーなど様々な商品を販売する「チーズ菓子専門店」としてリブランディングしたのです。
なぜ「BAKE」という統一ブランドにしないのか?

えっ、これもBAKEのブランドだったの?と驚く
現時点で、BAKEが展開するブランドはBAKE CHEESE TART・PRESS BUTTER SAND・しろいし洋菓子店・caica・RINGO・トーキョー煎餅・TeaDrop.などかなり多い印象です。
そもそもBAKEではなぜイメージの異なるブランドをいくつも展開しているのでしょうか?たとえば「BAKE CHEESE TART」が成功したのなら、「BAKE屋さん」としてその派生商品をいくつも展開するほうが簡単に売り上げをつくることができるようにも思えます。
美味しいお菓子ではなく「体験」を売る
「それぞれのブランドからファンになってくださったお客様がBAKEが運営している別のブランドも回遊し、『ここではこんな体験が楽しかった』『次はこんな体験ができた』と様々な体験を楽しんで頂きたいと思っています」(北村さん)
新しいブランドを作ると、原材料も異なるし包材や店舗の内装も変わるのでコストがかさみます。それでもブランドを分けるのは、ただ美味しいお菓子を食べるのではなく「体験」を楽しんでほしいから。

たとえば「BAKE CHEESE TART」は“お菓子のライブ体験”がテーマ。店頭で焼き上げることで、焼きたての香りを感じながら、まるでお菓子の工場に入ったかのような臨場感のある体験が魅力です。
架空のパティスリー「しろいし洋菓子店」の没入感

一方で、「しろいし洋菓子店」はオンラインを中心に販売しているブランド。“お菓子の没入体験”をテーマにしています。ブランド名にもなっている「しろいし洋菓子店」は架空のパティスリーという設定で、1階に「しろいし洋菓子店」、その上にはマンションがあり、それぞれの住人をコンセプトにしたお菓子が展開されています。
「201号室に住んでいるのは楽器職人のスノーという青年。雪の降らない日には真っ白な丸いブールドネージュを食べているっていうストーリーがあって。お客様が購入して食べる時に『これがスノーが食べてるブールドネージュか』なんて情景を浮かべながら食べてもらえています。ホームページ上では物語がどんどん進んでいるので、新商品が出る=次の物語が更新されていくということ。ファンになってくださった方は物語に没入して何度も訪れてくださいます」(北村さん)
一番人気のクッキー缶は開けた瞬間のサプライズ感が魅力です。縦に4段異なる3種のクッキーが積み重なっていて、1段目は他にはないらせん状の形。「次はどんなクッキーが出てくるんだろう」と食べ進めるごとにワクワクできる工夫がされています。
そして「架空のパティスリー」という設定ゆえに、BAKEブランドの中でも常設の実店舗が唯一ありません。その希少性もファンを引き付けるのです。
味よりも「物語」が先。常識破りの“逆算”モノづくり

現在チーフブランディングオフィサーに就任している北村さんですが、2016年の中途入社時には広報として入社しています。のちにオンライン事業の責任者を経て現在のポジションに就任しますが、広報としての経験は現在のBAKEのブランディングにも影響を与えているのだそう。
「それまでBAKEでは『圧倒的に美味しいチーズタルトがある→どうやって売ろう』という考え方だったのが、近年は『こういう体験を提供したい』から逆算してブランドをつくっています。
広報出身だからできた「伝わる」コンセプト設計
たとえば2025年12月から新たに立ち上げたブランド『TeaDrop.』なら、コロナ禍を経ておうち時間を豊かにするためにルームフレグランスの人気が高まってきたことがブランドのきっかけ。特に紅茶の香りに注目が集まっていたこと、男女を問わず万人受けする香りということもあり、お菓子にしたら面白そうだなと考えました。そこからどんな商品なら紅茶の香りが一番伝わるだろう、どういう箱のデザインなら手土産としてご満足いただけるのか、と一般的なお菓子の作り方とは逆の手順で考えていきました」(北村さん)

じゅわっと紅茶の滴るような味わいが広がる『TeaDrop.』のティードロップケーキ
これまでとは逆の手順でブランドを作り上げていくことになり、開発担当やデザイン担当など各部署が混乱してしまいそうですが、北村さんは「目線を合わせながら全員でつくることを意識している」と話します。
「それぞれの部署の立場で見え方が異なりますから、ブランドを作り上げる過程では何度も話し合って『こんなコンセプトはどう?』『こんな要素を加えたらどう?』と意見を出し合います。『しろいし洋菓子店』でいえば、SNS担当者がマンションや住人の構想を出してくれました。その方がSNSの更新がしやすいと感じたからだそうです。
パッケージデザインもインハウスのデザイナーが担当しています。化粧品のパッケージデザインをしていた方など様々なバックグラウンドのデザイナーが在籍しているので、面白い発想でお菓子を捉えてくれています。関わっている社員全員が当事者意識を持ってブランドを作り上げていると感じますね」(北村さん)
「1人のアイデアなんてたかが知れているし面白いものはできませんから」と話す北村さん。複数人が携わることで何度も脱線しそうになったりブランドの軸がブレそうになったりするといいますが、「その膨らませている時間がすごく大事だし、それがBAKEのブランドの作り方」と断言します。
あえて「効率」を捨てる。BAKE流・ヒットの美学
他メーカーとは逆プロセスのブランドの作り方に加え、BAKEでは「お客様の期待値を超える、そのために味に妥協しない」ことを重視しています。
8割の人が「美味しい」と感じる味の正解
そのための味覚の基準となるのが「8割主義」という考え方です。
「美味しさは人によっても好みがあり異なるものだと思いますが、もともと“1ブランド1プロダクト”を採用していたこともあって、お客様に味が受け入れられないとブランドを維持できない危機感は常にありました。そこでBAKEでは『8割主義』という考え方を大切にしてきました。これは10人いたら8割の方が知っている美味しいと感じる商材で勝負をしようというものです。『チーズタルト』とか『アップルパイ』とかは味をイメージしやすいですよね。BAKEがブランドを作るときに主要となる食材には何味かわからないものは選びません。8割のお客様が美味しいと感じる商品になるように設計していますね」(北村さん)
手作業で詰めるクッキー缶。「売れるから増産」はしない
そして「効率だけを追い求めること」はしません。BAKEのオンラインサイトを見るとしばしば「売り切れ」となっている商品があり、「売れるならもっとたくさん作れば良いのに」と思うかもしれません。しかし現時点で「これが限界」だそうで、大量生産することは諦めているのだそう。

「特に『しろいし洋菓子店』のクッキー缶は複雑な形状で、ひとつひとつ手作業で詰めています。開けた時のワクワクやサプライズ感を妥協すればもっとたくさん作れるかもしれません。でも絶対にやりません。デザインやクッキーの形状は他社さんがマネしようと思えばいくらでもマネできると思いますが、効率を考えるとどこもやろうとは思わないと思います」(北村さん)
近年の食トレンドでもある「体験」を提供するブランドであること、そして味への徹底的なこだわりがテイストの異なるブランドを成功させ続ける秘訣でした。「ただ美味しい」だけでなくワクワクする“体験”時間も提供するBAKEのお菓子であなたも幸せになりませんか?
文・撮影/松本果歩
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