深夜の品川で「巨大な橋」が動いた! 京急線の高架化工事で約96メートルの「送り出し」

京急線品川駅横で行われた「橋が動く」工事
2月23日の深夜1時30分ごろ、品川駅の南側で、巨大な橋が動き始めました。
この橋桁は、 JR線をまたぐ京急線の鉄橋「八ツ山跨線々路橋」となる予定のもの。品川駅横のヤードで組み上げられ、この日初めて大規模な移動を始めたのです。

現在の八ツ山跨線々路橋を渡る京急線の列車。背後に「前方仮設トラス」が見えます
京急線の泉岳寺~新馬場間では、東京都が事業主体となって、連続立体交差事業が進められています。「品川第一踏切道」など3か所の踏切を除却するための事業で、品川駅は高架駅から地平に移る一方、品川~北品川~新馬場間は高架線となる計画です。
高架化工事の際、高架橋は工事現場で直接建設されますが、長さがある橋桁は、何かしらの方法を用いて架設する必要があります。今回採用したのは、「送り出し工法」というもの。工事現場周辺で橋桁を組み上げ、目的の場所まで動かす方法です。
鉄橋を架設する際に最も一般的な工法は、クレーンで橋桁を組み上げるものです。しかし、八ツ山跨線々路橋周辺では、橋の下をJRの線路が通っており、約1400トンもの重量がある橋桁を支えるクレーンを置くことができません。そのため、この場所では送り出し工法が採用されたといいます。
1回目の送り出し量は95.8メートル。このうち、18.75メートルは事前送り出しとして2月3日に実施済みで、この日は残る77.05メートルの送り出しが行われました。
ゆっくりと動いていく橋

送り出し作業開始前の位置
送り出しの作業は、最終列車が去った後の深夜に開始。1時30分ごろに橋桁が動き始めました。
送り出し速度は、1分間に約2メートル。橋桁は、ゆっくりと、しかし着実に、北品川駅方へと進んでいきます。
送り出しは、約40分で一旦停止。調整のためしばらく待機した後に、最後の1メートル分が動かされ、第1回の送り出しは完了しました。作業開始からちょうど1時間後のことでした。
架かったのは「列車が通れない橋」、なぜ?

現在は全長約233メートルある構造物ですが、実際に列車が通る橋となる部分は、このうち100メートルのみです
今回動いた構造物は、列車が通る予定の「本設トラス」に、送り出し用の仮設構造を連結したものです。本設トラスは、全長100メートル、重さ約1400トン。これに、全長111メートル、重さ約600トンの「前方仮設トラス」と、全長22メートル、重さ約200トンの「後方仮設トラス」、後方仮設トラス内に置かれた約1100トンのカウンターウェイトが加わり、全体で長さ約233メートル、重さ約3300トンとなっています。
八ツ山跨線々路橋となるのは全長100メートルの本設トラスのみで、前方・後方の仮設トラスは列車が通ることを想定したものではありません。このような、本設トラスよりも長い仮設構造物を接続した理由は、送り出し時のバランスにありました。
最初から本設の橋桁のみを送り出すとなると、それそのものの重量があるため、重心の関係で先端側が大きく張り出すことになり、安定して送り出せません。部材のバランスを取るため、前後に仮設トラスが付け加えられ、本設トラスとともに送り出す方法が採られたといいます。
今回の送り出しは、本設トラスは北品川駅方に届いておらず、今後さらに複数回の送り出しを進めて正規位置まで動かす計画です。その際、前方仮設トラスは順次解体することになるため、今後さらに10回の送り出しが必要になるといいます。
なお、送り出し工法を採用する際は、進行方向が一直線となることが理想的です。しかし今回の工事の場合、東側はJRの線路、西側は京急の線路や国道15号に挟まれており、直線上に作業スペースを設けることは困難でした。そのため、京急線の現在線に沿ったカーブ状(半径500メートル)に動かす方法が採られましたが、部材に掛かる力が均等ではなく、さらにカーブに沿って橋桁を動かすことになるという、非常に難易度の高い作業になりました。
品川駅周辺の連続立体交差事業とは?

品川第一踏切道。ラッシュ時以外でも、上下列車が連続して通過し、踏切がしばらく開かないことがあります
「京浜急行本線(泉岳寺駅~新馬場駅間)連続立体交差事業」は、品川第一踏切道、同第二踏切道、北品川第一踏切道の、3か所の踏切を除却するための事業です。北品川駅を含む品川~新馬場間を高架化し、踏切を廃止することで、交通の円滑化や安全性の向上などを図ります。
また、今回の事業で特筆されるのは、品川駅は逆に高架駅から地平駅に「地平化」すること。これにより、品川駅東西自由通路から駅西側までフラットに移動できる歩行者動線を構築できるようになり、品川駅周辺の回遊性向上も図られます。
ちなみに、現在の京急線品川駅は2面3線構造ですが、地平駅となった後の品川駅は、2面4線へと機能が増強されます。連続立体交差事業は、鉄道事業者が4~15パーセント(地域によって異なる)、残りを国や地方公共団体が費用負担することになりますが、このような設備増強分の費用は、鉄道事業者が全額負担することになっています。
さらに、地平化後の京急線品川駅の直上には、JR東日本と京急によって高層ビルなどが建設される予定。地上28階建てのビル2棟や、宿泊施設が入るビルなどが整備される計画です。さらに、都による事業も進行中で、各事業により、高輪ゲートウェイ駅付近と品川駅南側を結ぶ南北方向の歩行者動線、品川駅西側の国道15号をまたぐ東西方向の歩行者動線が整備される予定となっています。
この地平化により、現在はフラットな線形となっている品川~北品川間は、連続立体交差事業完成後は35パーミルの勾配(1000メートル進むと35メートル登る勾配)が設けられることになり、今回送り出しされた橋桁も、この勾配区間に設けられることになります。
また、品川駅から現在の八ツ山跨線々路橋までの間には、京急線でも有数の急カーブがあり、列車はスピードが時速25キロに制限されています。今後新設される高架線でも制限速度は残りますが、今よりも制限は緩和されるため、若干のスピードアップが期待できるといいます。

東京メトロ南北線の建設工事も進められている品川駅周辺
今回の送り出しは、初めて橋桁と一体となった構造物がJR線をまたぐという、目に見えてわかる大規模なものでした。
しかし、先述したように、送り出し自体は(今回ほどの移動量ではありませんが)今後も予定されています。橋桁がJR線をまたいだ位置に到達するのは、2026年の秋ごろ。その後、上下左右の位置調整を進め、2027年度には正規の位置に置かれることになるといいます。
また、品川駅や北品川駅など、他の箇所の工事も進められ、2030年度には、京急線の線路が新設線に移設される計画となっています。
品川駅周辺では、京急やJR東日本による開発プロジェクト、東京都による整備プロジェクトに加え、JR東海のリニア中央新幹線建設、東京メトロ南北線の延伸が予定されています。
もちろん、京急線の連続立体交差事業も重要な項目の一つ。今回の送り出し作業は、まだまだ事業完成まで先は長いものの、将来の品川駅の発展に向けた一つの関門を通過したといえます。