トランプ氏の暴走を止める力はあるのか 世論調査の最大手は撤退、メディアは身売りや政権の攻撃で弱体化
イランへの攻撃に踏み切った米国のトランプ政権。同氏が矛先を向けるのは中東だけではない。世論調査も標的にし、交流サイト(SNS)で「詐欺」「犯罪」と投稿する。民意を背景に大統領2期目がスタートしてまだ1年余り。それなのになぜ、「民意の可視化」を担う世論調査に照準を合わせるのか。(中根政人、太田理英子)
◆不支持率56%、イランの成果で回復しようと?
6月に80歳となるトランプ大統領。ロイター通信などが2月24日に公表した米国の世論調査では、61%が「加齢によって不安定になっている」と回答した。
米紙ニューヨーク・タイムズ電子版はこれに先駆けた1月22日、トランプ氏の政権運営に対する世論調査の支持率が40%、不支持率が56%に上ったと報じた。

トランプ大統領(資料写真)
同志社大の三牧聖子教授(米国政治外交)は「物価高の問題が解決しないどころか、関税政策によってさらに悪化させたという経済政策に対する不信任が一番大きい」とみる。
そんな中、イスラエルとともにイランへの軍事攻撃に踏み切ったことに関しては「トランプ氏としては、国内の問題で得点が稼げないため、目に見えやすい成果を示すことで支持率を上げようと思ったかもしれない。だが、米兵にも犠牲者が出るなど、思惑は既に外れている」と指摘する。
◆岩盤支持層がイスラエルを支持、さらに支持層を固めようと
そのトランプ氏、ニューヨーク・タイムズ電子版が先の調査結果を報じた日にSNSでこう断じていた。
「不正な世論調査は事実上、刑事犯罪とすべきだ。詐欺調査を食い止めるため、あらゆる手段を講じる」
イラン攻撃に先んじて、世論調査に矛先を向けたトランプ氏。背景について、上智大の前嶋和弘教授(米国政治外交)はこう解説する。
「米国の世論は未曽有の分断の状況にあり、トランプ氏の政策を喜ぶのは共和党支持者の中にしかいないのが実情だ」

上智大の前嶋和弘教授(資料写真)
世論調査を行うと、同氏にとってかんばしくない数字が出てくる。「不信の可視化」がさらなる支持離れを生みかねない中、強い言葉を繰り出して調査の信頼性を疑う。
トランプ氏は今、何を思うのか。
前嶋氏は岩盤支持層の一角をなすキリスト教福音派の存在に注目する。「彼らはイスラエルを支持し、今回の軍事攻撃を歓迎している。トランプ氏としては(世論の)分断の中で常に支持層を固めていかないとどうしようもない」
◆90年近く続いた大統領支持率調査からギャラップ社が撤退
トランプ氏としては、11月の中間選挙での敗北は避けたいものの、実際には「上院を死守し、下院の議席減を抑えたい」というのが現実的な情勢だという。
そんな同氏が矛先を向ける世論調査を巡り、目を引く動きも出ている。米議会専門紙の2月中旬の報道によると、米調査会社ギャラップが米大統領の支持率に関する調査を終了した。
90年近くに及んだのがこの調査。長い歴史を積み重ねてきた同社に関し、埼玉大の松本正生名誉教授(政治意識論)は「日本の調査会社も一つの目標にしてきた。米国でも、他の調査会社はギャラップに追いつけ追い越せという面があった」と述べ、業界での指標になっていたと解説する。

米国の調査会社ギャラップ社のホームページ上で、トランプ大統領支持率を示すページ(スクリーンショット)
調査終了の理由に関して同社は「戦略的転換」と説明する一方、政治的圧力があったかは不明とされる。前出の前嶋氏は「トランプ氏が(世論調査に)戦うかのように文句を付けてきた」ことも終了の一因にあると推測する。ちなみに最後となった昨年12月の調査で支持率は36%だった。
◆「テック富豪」はなぜ、トランプ氏に近づくのか
世論調査は「民意の可視化」の役割がある一方、「権力の監視」「議論の促進」といった役割を担うのが報道機関だ。
政権の独善に歯止めをかけるには双方が重要になるが、米国では最近、報道機関も揺らいでいる。
例えば、かつてニクソン大統領を辞任に追い込んだ「ウォーターゲート事件」の報道で知られる有力紙ワシントン・ポスト。2013年にアマゾン・コム創業者の大富豪ジェフ・ベゾス氏に身売りされた。
先月末には、政権に厳しいニュース専門局CNNを擁するワーナー・ブラザース・ディスカバリーを巡ってメディア大手パラマウント・スカイダンスが買収に最終合意したと発表した。
パラマウントのデービッド・エリソン最高経営責任者(CEO)はトランプ氏と近いことで知られ、ベゾス氏も政権に配慮する姿勢がみられる。なぜ彼らはトランプ氏に近づくのか。
米国在住の映画評論家、町山智浩氏によれば、「テック富豪」と呼ばれる経営側は宇宙事業などを試みようとしており、政権の協力も必要となる巨大事業を念頭に「トランプ氏との対立を避けようとしている」。

イーロン・マスク氏が創設した新興宇宙企業「スペースX」のロケット=2025年9月3日、米テキサス州ヒューストンで
一方で町山氏は「大手メディアは経営が厳しく、大半がコングロマリット(複合企業体)の傘下に入っている」と語り、「利益を上げられないテレビや新聞の自立よりビジネスが優先される」と指摘する。
◆エプスタイン文書で野党・民主党は反撃できる?
当のトランプ氏は2025年の第2次政権発足後、メディアへの攻撃を強めている。
自身に批判的な報道を「フェイクニュース」などとたびたび「口撃」。テレビや通信を監督する独立機関「連邦通信委員会」のトップに支持者を送り込み、テレビ局に放送免許の剥奪をちらつかせることも。さらには、メディアを相手取って巨額の損害賠償請求訴訟を次々と起こしている。
明治大の海野素央教授(異文化間コミュニケーション論)は「自身に批判的で、『第4の権力』とされるメディアの力を奪おうとしている」と説く。買収などのほか、長期的な裁判闘争に持ち込み、経営の体力がないメディアを抑え込む戦略だとみる。
「このままではメディア側の批判、チェック機能が甘くなる。記者同士が団結していくことが必要だ」
トランプ氏の暴走を止めるには、野党・民主党の存在が重要だが、先の大統領選では岩盤支持層の票も奪われ惨敗している。ただ、少女らの性的人身売買罪で起訴され自死した富豪エプスタイン氏の文書を巡り、司法省がトランプ氏に関連する資料を一部非公表にしたと取り沙汰されている。「11月の中間選挙に向けて民主党が票を取り戻す材料はある」(海野氏)
◆高市首相はトランプ氏と、どう向き合うべきか
トランプ氏の動向は、日本の経済や政治にも影響する。イランへの攻撃でいえば、エネルギー供給などがそうだ。独善を野放しにすれば、さらなる余波が生じかねない状況になった。
高市早苗首相に問われたのはトランプ氏との向き合い方。しかしイランへの攻撃が報じられた先月28日、首相はその情報を得ながら石川県知事選の応援のために現地入りした。

高市氏を一目見ようと、会場を埋める来場者ら=金沢市内で
中央大の山崎望教授(政治理論)は、遠隔地で危機対応に当たる仕組みができていたかと疑問を口にした上で、「原油輸送など日本への影響、国際的反響を考えれば重大な結果を招きかねず、テレビなどで国民に向けたメッセージを発信すべきだった」と述べる。
日本がイランと独自の友好関係を築いてきたことも踏まえ、「今回のイラン攻撃は侵略戦争に限りなく近く、国際法や法の支配からの逸脱にNOを突きつける姿勢が必要だ」と求めた。
◆デスクメモ
報道に身を置く一人として、米国の状況が気になって仕方がない。民意の可視化に圧、普段の活動により強い力。現場の心労はどれほどか。経営層は味方なのか、敵なのか。権力の暴走に歯止めをかける役割は今こそ必要に。日本でも危惧される問題。職責の重みを自覚せねばと感じる。(榊)
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