「学費実質ゼロ」を実現した高専のすごい仕組み

学費は実質無償の「神山まるごと高専」(写真:学校法人神山学園)
新設の「高専」が画期的すぎた!
近年、日本の地方創生や人材育成の文脈において、地域の資源を活かした新しい教育モデルへの期待が高まっている。特に、少子化や都市部への人口流出により、地方で学びの場を確保し、地域から世界へと羽ばたく人材を育てることは喫緊の課題である。
【画像でわかる】学生の実質的な負担が「ゼロ」となる仕組み
こうした背景のもと、徳島県神山町に2023年4月に開校した私立の高等専門学校「神山まるごと高専」が大きな注目を集めている。高等専門学校(高専)は、実践的技術者の養成を目的とした5年制の高等教育機関だが、高専新設は19年ぶりのことだった。
神山まるごと高専が目指すのは「モノをつくる力で、コトを起こす人」の育成。言い換えるなら、単に知識や技能の習得だけでなく、それらを活用して「新たな価値を社会に実装する能力」を重視している。
同校の開校・運営は、さまざまな形の支援によって支えられている。クラウドファンディングによる資金調達、専門知識を無償提供するプロボノ参画、物品やサービスの寄付、授業提供など、個人や企業がさまざまな関わり方でパートナーとなっている。
特に注目すべきは、学費無償化を可能にするために設立された奨学金基金。この基金に拠出する企業は「スカラーシップパートナー」と呼ばれ、その仕組みは日本初の試みとして高い関心を集めている。
運営法人である神山学園は、日本を代表する大企業11社から合計100億円超の拠出・寄付を受け、「神山まるごと奨学金基金」を立ち上げた。この基金は単なる資金の積み立てではなく、投資会社に運用を委託し、その運用益を学校に寄付する仕組みを採用している。
学生の実質的な負担が「ゼロ」となる仕組み
これにより、元本を減らすことなく、運用益のみで在学生全員の学費をまかなう持続可能な仕組みとなっている。学生は一度学費を納入するものの、「給付型奨学金」として同額が支給されるため、実質的な負担はゼロとなる。
●2023年時のビジネスモデル

企業からの寄付金の運用益により、学費が実質無償で学べる仕組みになっている(図版:KADOKAWA)
さらに、学生は全寮制の寮で学び、寮費についても世帯収入に応じて減額される制度が整備されている。これにより、経済的な背景に左右されず、全国から意欲ある学生が集まる環境が実現。このような学費・生活費支援の仕組みは、地方創生と教育機会の平等化の両面で先進的なモデルといえるだろう。
神山まるごと高専にとって、奨学金基金など企業とのパートナーシップは単なる資金支援にとどまらず、教育の質と継続性を担保する基盤だ。資金の持続的な運用と社会的支援ネットワークの構築で、経済状況に左右されない学びの場が実現しつつある。同校は地域発の教育機関として、今後も全国や世界のモデルケースとなり得る可能性を秘めているのだ。
やがて出てきた大きな「課題」
高専入学後、学生たちは授業外でも幅広い分野に挑戦するようになった。一般的な高校であれば、教員が顧問として課外活動を支えることも多いが、神山まるごと高専では、学生の好奇心・関心が多岐にわたり、校内スタッフだけではすべてに対応することには限界があった。つまり、学生の好奇心が広がる一方で、学校のリソースは限定的という問題点が浮き彫りになったのである。
そして、そういった「課題」への対応と結果はこうだった。
対応:企業や地域と連携した学びの機会拡大
奨学金基金に参画するスカラーシップパートナー(11社)が、学生の関心に応じた実践機会を提供。ほかにも、新製品開発やデザインプロジェクトへの参画や、物品の提供など、さまざまな支援を行うパートナー企業もある。さらに地域住民も加わり、農業体験や商店をテーマにした授業など、学校外での学びの場が拡張した。
結果:学校と外部のパートナーが継続的に関与する体制へ
学校の教育活動を学校スタッフのみが担うのではなく、学生たちの興味や関心に応じた人をつなげることで、社会全体が未来世代の教育に関わることができるが、神山まるごと高専はその「ハブ」となり、学生の学びの成果は地域や支援者にも還元されつつある。
●2025年時のビジネスモデル

学びが地域全体に広がり、社会から"まるごと"学ぶ環境づくりを行なう仕組みになってきた(図版:KADOKAWA)