【要注意】新幹線のトイレでスマホや財布を落としたら「一巻の終わり」になりかねないワケ

写真はイメージです Photo:PIXTA
【中編】電車に乗って移動中、突然おなかが痛くなった!そんな時に実感する「列車トイレ」の有難さ。いかにして快適なトイレが作り上げられたのか。清掃現場も含む、日本の列車トイレについて解き明かす。※この記事は、鼠入昌史『トイレと鉄道』(交通新聞社)の一部を抜粋・編集したものです。
トイレにものを落としたら
汚物の抜き取り作業をしている様子を見ていると、作業員が片手を汚物排出のホースにあてがっていた。汚物が流れているホースを安定させるためか、それとも作業員の単なるクセか。そう思って尋ねてみると、ちゃんと理由があるという。
「タンクが詰まっていて汚物が出てこないことがあるんです。だから、こうして片手をあてて、汚物がちゃんと流れてきているかを確認しています」(TESSEI担当者)
汚物タンクには内部の様子を確認できる小窓も設しつらえられてはいるものの、それだけですべてが確認できるわけではないようだ。そして、実際にタンク内におむつや下着などが詰まっていることもあるのだとか。
JR東日本が新幹線のトイレで採用している清水空圧式という方式は、便器の穴が比較的大きいのが特徴だ(ちなみに東海道新幹線は穴が小さい真空式)。なので、多少のものならタンクまで流すことができてしまう。
通常時はタンクから臭気があがってこないように便器の穴にはフタが設けられている。ただしこのフタ、非常時などに停電して水が流せなくなったときでもトイレが使用できるように、上から押されると(つまり何かが落ちると)フラップが落ちてフタが開く仕組みだ。
そのため、おむつや汚れた下着などを便器に放り込んでも、そのまま汚物タンクまで流れてしまう。ときにはそれがタンクから汚物を抜き取る際にひっかかってしまうことがある、というわけだ。
異物が詰まっていて汚物がタンクから出てこずに現場でも対処できないと、JR東日本に連絡、詰まりを除去する作業が加わることになる。もちろんその場合でも、車庫を出て行く時間を遅らせてもいいということにはならない。だからこそ、ひとつひとつの作業を効率的に進めていくことが肝要なのだ。
ちなみに、おむつや下着などがタンクまで流れてしまうということは、スマホや財布といった貴重品も同じだ。トイレを洗浄しなくても、誤ってスマホを便器に落とすと、その重みでフラッパーが開き、汚物タンクまで真っ逆さま。ウンコやオシッコの中にポチャンと落ちて、一巻の終わり。そうなってしまえば、もう二度と取り戻すことは不可能だ。
穴の小さい真空式を採用している東海道新幹線ならば、便器の中に引っかかって止まるのでタンクに落ちる心配はない。洗浄で使用する水も500mlに満たない少量だから、水没もしない。ただ、いずれにしてもトイレに行くときは、落としものには要注意。そして、傍らに置いたスマホや財布をそのまま忘れてトイレから出る人も多いというから、忘れ物にも要注意、である。
同時進行で進むトイレの清掃
車両基地の仕業検査線で行なわれているのは、汚物の抜き取りだけではない。車内の清掃作業も同時並行で進んでいる。
車内の清掃作業には、座席などをはじめとする客室内も対象に含まれている。こちらはこちらで、「アイドルのコンサートがあるとキラキラした小さな紙吹雪みたいなのがたくさんついている」「芝生の上に座るような花火大会などのイベントのあとは、座席に芝生の切れ端が」などなど興味深い話を聞くことができたのだが、本書のテーマはあくまでもトイレなので、別の機会に。

トイレの多機能化によって清掃箇所は増えているという 画像:本書から転載
トイレの清掃も、汚物抜き取りと同じく1編成を2名で行なう。担当分けがE7系では1 ・3 ・5号車と7 ・9・11・12号車に分かれているのもまったく変わらない。
床下の汚物抜き取り作業と車内で行なうトイレ清掃は互いに影響することはないので、仕業検査線に車両が入ってくると同時にトイレ清掃もスタートする。
トイレ清掃は基本的には家庭のトイレとほとんど同じだ。トイレ内のゴミ箱や汚物入れの回収にはじまり、トイレットペーパーや便座クリーナーなど消耗品の補充、そして便器の擦り洗いに拭き上げ、鏡や扉、壁、床なども、もちろんピカピカに拭き上げる。
女性用トイレや多機能トイレに付いているベビーベッドやベビーチェア、フィッティングボード、またオストメイトといった設備も丁寧に清掃する。洗面所では、ハンドソープの補充も作業のひとつ。小便器はどうしても床部分にオシッコが飛び散って嫌なニオイの原因になるので、奇数日には消臭剤の散布も行なっている。
と、こうして言葉にするとそれほど難しいこともなさそうだ。ただし、この新幹線のトイレ清掃にも時間制限がある。のんびり清掃するなら誰でもできそうな作業でも、小便器とふたつの洋式トイレ、洗面所のワンセットを10分ほどで終わらせなければならないのだから、なかなかハードな仕事と言っていい。
ベテランの作業員に話を聞くと、「拭く作業は拭く作業、補充は補充など、同じ作業をまとめて片付けていくことを意識しています」と教えてくれた。清掃用具やゴミ袋など交換する消耗品をどこに置くかといったところまで、ひとりひとりが考えて効率的な方法を見つけているという。実際、作業員たちの動きはまさに流れるようでまったくムダがない。

『 トイレと鉄道 』(鼠入昌史、交通新聞社)
「サービスセンター内には訓練用のトイレもありまして、そこで練習を重ねています。トイレ内はスペースが狭いので、体を捻ったときにどこかをぶつけて怪我をしてしまわないように、というのは注意するところです」(TESSEI担当者)
近年では多機能トイレを中心に清掃する場所が増えているという。いかに効率的に、かつ確実に清掃するかという難易度は年々高くなっていると言っていい。
「そのために、清掃担当者の人がどの辺の汚れがヒドイのかをまとめた図を作って、これを共有、清掃の効率をあげるような工夫もしています。経験豊富なベテランもいれば、最近入ったばかりの人もいるので、チームワークで情報や経験を共有しながら、限られた時間の中でやっていますね」(TESSEI担当者)