トランプ政権「EV大逆風」でスバルの未来は?

スバルの新型EV「トレイルシーカー」に乗ってスバルの未来を考えた(筆者撮影)
ついにここまでスバルに近づいてきたか!
【写真で見る】スバルの新EV「トレイルシーカー」試乗会の様子
いや、まさにスバルそのものではないか!!
今春に発売予定のスバル「トレイルシーカー・プロトタイプ」(以下プロトタイプ省略)を群馬県内の圧雪クローズドコースで試乗。車内で思わず唸った。
スバルの量産型EV第2弾は、「スバルらしさ」を携えた次世代スバルの象徴であると言ってもいい出来栄えだ。
一方、スバルの主力市場であるアメリカでは、トランプ政権の強い意志により環境政策が方向転換。ここ数年、欧米では「EVは踊り場」と言われてきたが、そんな甘い考え方がもはや通用しないほどEVに大逆風が吹き始めた。
果たして、スバルの未来はいかに?
「ソルテラ」との違いはどこに?
まずは、「トレイルシーカー」試乗から話を始めたい。
パッと見の雰囲気は、「どこかアウトバックっぽい」というもの。たしかにヨーロッパでは「eアウトバック」を名乗っている。
これまで「ジャパンモビリティショー2025」などで実車を見てきたが、それは屋内でのことだった。こうした雪をまとった山の中だと、スバルらしさが活きる。

フロントのデザインは改良型の「ソルテラ」と同形状。ボディ後部の形状が異なる(筆者撮影)
ボディサイズは全長4845mm×全幅1860mm×全高1670mmで、ホイールベースは2850mm。クルマ全体としてのベースは「ソルテラ」で、リアオーバーハングがソルテラ比で155mm増となり、荷室容量を633Lへと拡大している。
EVの基本構造を見ると、FWD(前輪駆動車)とAWD(4輪駆動車)ともに電池容量は74.7kWhで、ソルテラと同じだ。

2025年9月に乗った「ソルテラ」の改良モデル。「トレイルシーカー」と比べリアが短い(筆者撮影)
FWDのシステム最大出力は165kWとソルテラと同じだが、AWDのリアモーターは出力が2倍となり、システム最高出力はソルテラの252kWに対して280kWへ。0-100km/hも4.9秒から4.4秒へと向上している。
では、走り出そう。なお、筆者はこのコースで二度、ソルテラに試乗している。最初は2022年に初期モデルを雪上で、その後は25年秋にビッグマイナーチェンジされた現行モデルだ。
トレイルシーカーで走り始めてすぐ、乗り心地の良さを感じた。路面の一部にはワダチができていたが、そうした細かい凹凸を拾ってもクルマ全体がガタガタしない。
そして、ハンドルをこぶしひとつ分ほど切っただけで、クルマがスッと曲がっていく。そこからの「動きの連続性」が良く、ソルテラ改良版でも感じた「予見性の高さ」を実感できた。
ソルテラよりもボディサイズが大きく、重量も増えているが、クルマの動きがもっさりしている印象はまったくない。

雪上での試乗でも「トレイルシーカー」は安心感の高い走りを見せてくれた(筆者撮影)
「インプレッサ」や「レヴォーグ」に対する「アウトバック」(国内仕様最終版)の走行感に近い、上質さを兼ね備えているといえる。
さらに気に入ったのが、ドライブモードによる走りの違いと、パドルシフトによるエネルギー回生量調整の組み合わせで、スバルらしさが活きている点だ。
最もわかりやすいのが、SPORTモード(強回生)での動きだ。少しオーバースピード気味にコーナーに入っても、減速時にクルマの動きがピタッと落ち着く。
水平対向エンジン搭載車のような、低重心での旋回性の良さ、かつアクセル操作で姿勢変化を操る喜びがあるのだ。

インストルメントパネルなどインテリアの意匠は基本的に「ソルテラ」と共通(筆者撮影)
そんな一連の動きの中で、システムによって安心安全方向も担保されているのだが、それでもドライバーにはワクワク感が芽生える。まさに、“スバルっぽい”のだ。
今回の試乗では、現行「フォレスター S:HEV(ストロングハイブリッド)」にも試乗したが、トレイルシーカーにはフォレスターと同様の“走りにおけるスバルらしさ”を感じた。
追求された「スバルらしさ」
時計の針を戻すと、初期ソルテラに乗った際、開発担当者らはトヨタとの共同開発において、基本パワートレインがトヨタ製であることで「スバルらしさ」の追求に大いに悩んだと告白していたことを思い出す。
むろん、ソルテラと同じくトレイルシーカーでもトヨタ版(ヨーロッパ:bZ4Xツーリング、北米:bZウッドランド)が存在するが、スバルとの協業を続けてきたことで、トヨタが言う「もっと良いクルマ」に仕上がり、さらにトヨタ独自のセッティング思考を取り入れていることが想像できる。
国内での価格は試乗時では未発表だが、アメリカでは4万5300ドル(1ドル155円換算で702万1500円)だ。
ここからは、スバルのEV戦略全体について話を移す。
スバルは大崎篤社長就任を受けて、23年8月2日に「新体制における方針」を公開している。
その中で、「28年までにバッテリーEVを4車種追加し、26年度末までに投入することを公表済みの4車種(SUV)に加えて、合計8車種のバッテリーEVをラインアップ」、さらに「アメリカでのバッテリーEV販売40万台を狙う」としていた。

2023年「新体制による方針説明」資料より
次いで、24年5月13日公表の「新経営体制における方針 アップデート」では、26年末時点での市場導入が決まっている、トヨタと共同開発するSUV4車種について詳しく触れた。
その後、トヨタの発表により全容が明らかになった。以下、箇条書きとする。
・ソルテラ(ヨーロッパ:bZ4X/北米:bZ)
・トヨタ・ハイランダーBEV
・アンチャーテッド(ヨーロッパ:C-HR+/北米:C-HR)
・トレイルシーカー(ヨーロッパ:bZ4Xツーリング/北米:bZウッドランド)
・大泉工場:当初EV専用、現状ではICE(ハイブリッド車等)との混流へ変更
・トヨタとのアライアンス:トレイルシーカーはスバル群馬県矢島工場で生産して、スバル独り立ち
このようにスバルはトヨタと協業し、その一部で自前化しながらEV戦略を進めてきた。ところが、25年1月の第2次トランプ政権が発足した途端に、EVの逆風が吹く。
抜本的な見直しを図るメーカー各社の中で
バイデン政権が主力政策に掲げてきたIRA(インフレ抑制法)が見直された。これによりユーザー向けの税制控除(最大7500ドル)が25年9月末で終了。駆け込み需要が起こり、その後、EV販売は下降した。

今回の試乗会では「フォレスター」に乗ることもできた(筆者撮影)
また、オバマ政権時で確定した大気浄化法による温室効果ガスの「危険性の認定」を撤回するとしてパブリックコメントを実施。最終的には、26年2月に撤回。
これにともない、CAFE(企業別平均燃費基準)も大幅に緩和され、EVに対する優遇措置が変更される運びとなった。
こうした政権による政策転換を受けて、デトロイト3(GM/フォード/ステランティス)はEV関連投資計画を抜本的に見直し、それぞれ数兆円規模で予算に計上して営業利益を圧迫した。
日系メーカーでは、ホンダが中国市場で不振のEV事業戦略を「白紙に戻す」とし、北米市場でのEV戦略も大幅に見直す意向を「2026年3月期 第3四半期決算報告」の席で貝原典也副社長が明らかにした。また、EVを含めた4輪事業の不振を受けて、役員体制を大きく変更する。
スバル個社で対応できる範疇は超えた
こうした“EV大逆風”が吹き荒れるアメリカで、スバルはこれからEV事業をどう進めるのか。
中長期的には“EVシフトは起こり得る”と業界内で言われ続けている状況に変わりはなく、スバルとしてはまず、EVのベース技術を着実に磨き、当面は市場動向を見極めながら、国内工場での混流生産を続けることになるだろう。

「トレイルシーカー」のクルマとしてのポテンシャルは高いと言える(筆者撮影)
そうとはいえ、現状でEV市場の先行きはあまりにも不透明だ。ここヨーロッパは中国、さらにヨーロッパとFTA(自由貿易協定)を結んだインドなどの国や地域での政治的な動きも絡んでくる。
もはや、トヨタとの連携を加味したとしても、スバル個社で対応できる範疇を超えた印象だ。しかし、これはスバルだけの話ではなく、日本の自動車産業全体における大きな課題でもある。
その解決に向けて、自動車メーカーでつくる業界団体・日本自動車工業会(自工会)は、EVのみならず、近い将来を見据えて早急に、自動車産業界のあり方を抜本的に見直すべく動き出した。
具体的には、25年に公開した「新7つの課題」に対して、今年から自工会新体制で「危機感を共有」し、スピード感をもって検討している。
その進捗報告については、会長/副会長/理事らが、報道陣と毎月1回のペースでオフレコではない懇談会を実施するという、過去の自工会ではなかった異例の対応が続いている。
EVを含めた自動車産業の激動期。スバルを含めた、日系メーカーEV戦略の今後を注視していきたい。