大谷翔平のメジャー中継はいつまで地上波で視聴できるのか? ネットフリックスがWBC独占配信でもたらした功罪

利用者が急増したネットフリックス, 結局、中高年層が“視聴難民”になったのか?, WBCで存在感を放ったラジオの生中継, ネットフリックスの中継映像の評価は?, 地上波復活を望む日本のテレビ各局, 米大リーグもテレビ中継されなくなる?, 岐路に立つスポーツ視聴を巡る問題

ベネズエラが初優勝した2026年のWBC。ネットフリックスが独占中継したが、人々の視聴スタイルはどのように変化したのだろうか(写真:UPI/アフロ)

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 野球の世界一を決めるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、ベネズエラが米国を破って初優勝を飾った。

 グラウンドの外に目を向けると、日本代表「侍ジャパン」が準々決勝で敗れた今回は、過去5大会とは違い、初めて国内の地上波中継が消えた大会となった。

 独占中継を担ったのは、米動画配信大手のNetflix (ネットフリックス)。メディアなどは視聴に関する世論調査やアンケートを行い、有料の動画配信サービスになじみの薄い中高年層や、ライトな野球ファン層への影響を探っているが、スポーツ中継が動画配信サービスへ移行する流れは今後も加速していくだろう。

 その先には、ドジャース・大谷翔平選手らが出場するメジャーリーグ中継も地上波でみられない時代が近い将来に訪れるかもしれない。

利用者が急増したネットフリックス

 日本代表が前回と同じ優勝に届かなかったことで、地上波から中継が消滅した影響がどれだけあったかを推し量る比較を難しくした。限定的とはいえ、メディアなどの様々な調査からは、傾向を読み解くヒントもあった。

 日本経済新聞が米調査会社センサータワーの協力を得て行ったスマートフォン用アプリのダウンロード数と利用者数の分析によれば、ネットフリックスの日本での新規ダウンロード数はWBC開幕前後の3月2~8日に前年比で4.8倍に伸びた。

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日本は準々決勝で敗退したが、大谷翔平選手らの活躍する姿を日本の視聴者はどのように楽しんだのか(写真:スポーツ報知/アフロ)

 ネットフリックスが150億円とも報じられる巨額な放映権料を払った背景には、国内の中高年の野球ファン層を新たに取り込む狙いがあるとされる。この年代では、若い年代よりも、スポーツ中継は無料の地上波(※NHKの場合には受信料が必要)で視聴するという文化に根差しており、有料の動画配信への抵抗が強いとみられていた。

 このため、ネットフリックスは2月19日~3月18日に新規加入すれば、最も安い月額プラン(890円)を、初月だけ498円にするキャンペーンを打ち出すなど工夫を凝らした。

 地上波で中継された前回大会は、日本が優勝したことで盛り上がりも大きくなった。

 テレビ朝日系が放送した米国との決勝は、関東地区の平均視聴率が世帯42.4%、個人24.3%(いずれもビデオリサーチ社調べ)にもなった。TBS系が放送したメキシコとの準決勝も同地区の平均視聴率が、世帯42.5%、個人26.8%(同)と好調だった。

 ネットフリックスにとっては、今大会では日本が準々決勝で敗れたため、準決勝と決勝の盛り上がり分を差し引いた効果に限定されただろう。このため、短期的な視点では、期待したほどの新規契約の獲得などにはつながらなかったかもしれない。

 それでも、ダウンロード数の伸びからは、一定の果実を得たとみていいだろう。

結局、中高年層が“視聴難民”になったのか?

 年代別では、意外な一面も浮かび上がった。

 例えば、産経新聞グループの調査会社、産経リサーチ&データ(東京都千代田区)が3月13日に発表したインターネットのアンケート結果(回答者2868人)では、若年層のネットフリックス視聴が4割を超えたのに対し、70代以上は2割にとどまった。ただし新規の契約者の割合は、60代以上が全体平均を上回った。

 共同通信社が3月7〜8日に実施した全国電話世論調査でも「新たに契約した。あるいは契約する」が40~50代の中年層が最も多く、60代以上の高年層も4.8%。この数字は30代以下の若年層(2.5%)の2倍近かった。

 メディアが開幕前に指摘したような、必ずしも中高年層が“視聴難民”になるという筋書き通りにはなっていないようだ。

 そればかりか、新規契約の割合の高さは、WBCを転機とし、中高年層の視聴ツールと習慣に一定の変化が生じたことも示唆しているのではないか。

 ただし、地上波から消えた不満が、高年層で高まっているのも事実だ。

 朝日新聞が3月15日に配信した全国世論調査(電話)では、WBCをテレビ(地上波)で見られないのは「問題だ」と回答した割合は、40代以下は2~3割に対し、60代では5割を超えた。

WBCで存在感を放ったラジオの生中継

 こうした中で存在感を放ったのが、ラジオだった。ニッポン放送が日本戦を1次ラウンドからの全試合を生中継し、産経リサーチ&データのアンケートでは、70代以上のラジオ聴取は14.8%で、ネットフリックス視聴の21.6%に迫った。

 ネットフリックスの日本のコンテンツ部門トップを務める坂本和隆バイスプレジデントは、朝日新聞のインタビューで、地上波中継が消えたという声を「真摯に受け止めている」とした上で、スポーツ中継の今後について「日本における環境の違いや、世代ごとの意向といった地域性を丁寧にみながら、グローバル企業としてどういったラインアップでスポーツに取り組んでいくか。それが大事だと思います」と述べている。

 ネットフリックスが日本でスポーツイベントのライブ配信を行うのは、今回のWBCが初めてだった。このため、実際の中継は、地上波での巨人戦などでノウハウを蓄積する日本テレビが制作を受注した。

ネットフリックスの中継映像の評価は?

 中継模様に関しては、専門家の評価も高かった。

 放送作家で、スポーツコンテンツプロデューサーの谷田彰吾氏は、ヤフーのコラム記事の中で、「ネットフリックスの中継や周辺コンテンツのクオリティは、高かった」と振り返り、「日本テレビと連携して制作した中継映像は安定した出来だった。全般的には、アメリカプロスポーツスタイルの演出や施策が目についた。渡辺謙と二宮和也をアンバサダーに迎えた試合前後のライブ中継は、グラウンド内に特設スタジオを設けるアメリカでは定番のスタイルで新鮮だった。その他にも、B'z・稲葉浩志が東京ドームで『タッチ』を歌い上げた試合前の演出は、NFLスーパーボウルのハーフタイムショーを彷彿とさせた」(原文ママ)と分析する。

地上波復活を望む日本のテレビ各局

 では、国内のテレビ局はどう受け止めているのか。

 朝日新聞は、日本テレビの岡部智洋取締役がWBC開幕の約1カ月前の定例会見で、「自ら中継制作をして放送したい気持ちは強くある。今後もこれでいいとは一切思っていない」と述べたことを紹介する。

 また、スポーツ報知の記事では、NHKの井上樹彦会長が3月18日の会見で、今大会のWBCについて、「放送権料の著しい高騰によって国民の視聴機会が限られるのは、競技の普及という視点からもあまり望ましくない」との見解を示している。

 一方、米大リーグ機構(MLB)でWBCを含む国際イベントなどを統括するシニアバイスプレジデントのジェレマイア・ヨールック氏が、日経新聞のインタビューに応じ、「ネットフリックスとの提携がファンの視聴機会を妨げることはなく、障壁にはならないと考えている」と述べた一方で、次回大会の配信については「ファンの反応を見ながら判断していく」と語っている。

 日経新聞は3月14日付朝刊で、このインタビュー記事を「WBC地上波復活に含み」との見出しで報じたが、現実問題としては、WBCに限らず、近年のスポーツ視聴の主戦場は動画配信サービスへと移り、この流れは変わらないだろう。

米大リーグもテレビ中継されなくなる?

 気になるのは、ヨールック氏がこのときのインタビューで、「米大リーグのシーズンもテレビ中継されない時代は来るか」との問いに対し、「(日本における)シーズンの契約はあと数年残っている。メディア消費の傾向を見ながら更新時に何がベストか、どういう形で届けるべきかを検討したい」と応じていることだ。

 経済メディア「Business Insider」の記事によれば、国内のメジャーリーグの放映権は電通が2028年まで保有している。メジャーリーグの中継は、ヨールック氏が「数年後」と語った2029年に更新時期を迎えることになる。

 日経新聞も2025年9月の配信記事「大谷翔平がTVから消える?スポーツの公共性と有料配信のジレンマ」の中で、「MLBがNHKなどと結ぶ100億円規模の複数年契約も数年後の急騰が見込まれる。日本の局の手が届かない『高値の花』に大リーグがなったとき、大谷選手もテレビから退場するのかもしれない」と指摘している。

利用者が急増したネットフリックス, 結局、中高年層が“視聴難民”になったのか?, WBCで存在感を放ったラジオの生中継, ネットフリックスの中継映像の評価は?, 地上波復活を望む日本のテレビ各局, 米大リーグもテレビ中継されなくなる?, 岐路に立つスポーツ視聴を巡る問題

大リーグで活躍する大谷翔平選手の姿を、テレビ放送で楽しめなくなる日が訪れるかもしれない(写真:AP/アフロ)

岐路に立つスポーツ視聴を巡る問題

 国内のメジャーリーグ中継は、日本で行われた大谷選手らが所属するドジャースと、鈴木誠也選手らが所属するカブスが対戦した2025年の開幕戦や、ドジャースが2年連続でワールドシリーズに進出したポストシーズンが高い注目を集めた。

 今後も国内のトップ選手の移籍も相次ぐため、時差があるとはいえ、視聴ニーズは高いだろう。

 このため、ネットフリックスだけでなく、他の動画配信サービスが食指を伸ばすことも予想される。マネー競争が過熱すれば、大谷選手らの試合中継が地上波から消えることも十分にあり得る。

 英国では、五輪やサッカー・ワールドカップ(W杯)のような国民の関心が高いスポーツ中継は無料で視聴できる機会を保証するユニバーサルアクセス権が存在する。

 日経新聞の3月16日付配信記事によれば、豪州でもビッグイベントの放映権交渉では、無料の事業者に優先権を与える仕組みがあるという。また、東アジアで野球が盛んな韓国や台湾では、今回のWBCも地上波で視聴することができた。

 日本でも、ネットフリックスがWBC中継を独占配信することが決まった直後には、ユニバーサルアクセス権を話題にした記事が散見されたが、関心はそこまで高まっていない。

 スポーツ視聴を巡る日本の環境は大きな岐路に立っていることは間違いない。

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