「水を飲まずに学校へ」女子生徒たちの現実 1億人を変えた、リクシルのたった5ドルのトイレ

3月22日は「世界水の日(World Water Day)」。「安全な水とトイレを世界中に」というSDGsのゴール(目標6)を2030年までに実現するため、具体的なアクションを呼びかける日だ。

トイレに行きたいけれど、行けない」──世界には、日本で暮らす私たちには想像しがたいこの状況が、今も日常として存在している地域がある。

例えばインドやバングラデシュの農村部の学校。校内に女子トイレがないこともあり、女子生徒たちは水分補給を我慢したり、トイレのためだけに自宅に帰ったりする日常を強いられているという。

現在、世界では34億人が安全に管理されたトイレが利用できない環境で暮らし、不衛生な水やトイレが原因で毎日1,000人以上もの幼い命が失われている現実がある。そこに「寄付・援助」ではなく「ビジネス」の力で向き合っているのが、水まわり製品や住宅建材のメーカーであるLIXIL(リクシル)だ。

途上国・新興国に画期的なトイレシステムを提供し、持続可能な衛生市場の構築に取り組む「SATO(サト)」事業を率いる2人に、ソーシャルビジネスの最前線を聞いた。

SATOがビジネスで社会課題に挑む理由

リクシルのSATO事業を率いるエリン・マッカスカー常務役員(右)と、アジア地域担当リーダーの坂田優さん(左)。

“途上国支援”と聞けば、無償の物資提供や寄付をイメージする人も多いだろう。リクシルがあえてビジネスとして展開することを選んだのには、明確な理由がある。

単発のプロジェクトや寄付では、資金や資源が尽きた瞬間に支援が止まってしまいます。私たちが目指すのは、市場に製品が流通し続けることで地域が自走できる仕組みをつくり、インパクトを生み出し続けることです」(マッカスカーさん)

その一つの解決策として、リクシルでは2013年からソーシャルビジネス「SATO」を展開している。

SATOブランドとして、簡易式トイレシステムや手洗いソリューションなど、ニーズにあわせた衛生関連製品を展開。SATOの由来は、「Safe Toilet(安全なトイレ)」からきている。

「事業の核となるのは、単に売って終わりではなく、Make・Sell・Use(作る・売る・使う)のサイクルを回し続けるモデルです。

モノづくりのノウハウを持つ現地メーカーと提携してSATOトイレの製造・販売し、設置は現地の職人や配管工が担います。これらすべてを地域内で完結させることで、雇用と収入を生み出し、経済が自律的に回る仕組みづくりを目指しています」(坂田さん)

さらにマッカスカーさんは、「このモデルには、協力機関とのパートナーシップが欠かせない」と話す。

「SATOはプラスチック製で軽量かつ耐久性が高く、一人の職人がバイクに積んで農村まで運び、そのまま設置できます。

若年層や女性が活躍できる仕事でもあり、ユニセフ(国際連合児童基金)やNGO(民間団体)と協働して無料の研修プログラムを実施しています。プログラムにはこれまで2万4千人以上が参加し、ケニアでは研修を受けた女性職人が仲間のトレーニングをリードするなど、次の道も開かれています」(マッカスカーさん)

安全なトイレがないことで、奪われるもの

SATOトイレを運んでいるところ。ナイジェリアにて撮影。

「安全なトイレがないことは、健康被害にとどまらず、女性や子どもの教育の機会や尊厳をも奪っている」と、アジア地域の現状を見てきた坂田さんは語る。

インドやバングラデシュの農村部を訪れた際、その現実を目の当たりにしたという。

「男女共学の小学校を訪問すると、男子用・教員用のトイレしかありませんでした。『女子生徒はどうしているのか』と尋ねたら、『家に帰るか、外で用を足している』と。

トイレを我慢するために水分摂取を極限まで控えることもあると聞き、大きなショックを受けました。気温の高い地域ですし、脱水や体調不良のリスクも高い状況でした」(坂田さん)

そこでリクシルは協力機関と連携し、村長や学校長、保護者会などの承認を得た上で女子トイレの設置を進めたという。

「女子生徒たちは、『トイレのためだけに自宅に帰らなくて済む』『新しい学校のトイレのほうが自宅よりも安全で心地よい』と喜んでくれました。衛生設備を整えることは、子どもたちの尊厳の回復にもつながると感じた瞬間でした」(坂田さん)

現場の声から生まれたイノベーション

SATOが最初に進出したバングラデシュでは、2019年に黒字化を達成した。

SATOトイレは、地域によっても異なるが1台あたり約5〜10ドル。水と排泄物の重みで弁が自動開閉し、虫や悪臭を防ぐリクシルの技術を備えながら、現地の製造メーカーとの提携によって価格を抑えている。

現地で打ち合わせをする坂田さん(右)。

開発を支えるのは、「コンシューマーセントリック(顧客中心主義)」という一貫した姿勢だ。和式タイプの『SATO Pan』からスタートしたのち、洋式タイプの『SATO Stool』をラインナップに加えたのも、現地の声を取り入れた結果だと坂田さんは振り返る。