苦境のホンダ、それでもF1を走り続けるのはなぜ? 鈴鹿で考えた経営危機と再起への意志

不調の理由はパワーユニットの振動, 上限のある開発予算の中で何ができるか, アメリカのEV市場転換のあおりをうけたホンダ, ソニーとの共同開発の行方は?, 苦境に陥るホンダがF1参戦を続ける意義, 展示パネルにあるメッセージ

2026年、F1日本グランプリ会場内に展示されたアストン・マーチンホンダのマシン(写真:筆者撮影)

 このところ、「ホンダ苦戦」に関するニュースが多い。EV戦略の大幅見直しで巨額損失を計上し、2026年3月期の連結業績は最大6900億円の最終赤字の見通しとなった。その影響はソニー・ホンダモビリティに及び、新規モデルの開発と生産の中止を決定。そんな時期に、5年ぶりに復帰したF1でも開幕前の合同テストの段階からマシントラブルが続き、シーズン第2戦まで決勝レースで完走すらできない状況だった。

 F1は開発やマーケティングなどに巨額の資金を必要とする。そのため、ホンダのF1参戦続行について、厳しい見方をする人もいる。ホンダのF1参戦は本当に必要なのか。シリーズ第3戦・日本グランプリの現場で考えた。

 3月28日朝から現地入りし、3回目のフリープラクティスと予選を見たが、場内は大混雑だった。

 グランドスタンドや各コーナーサイドのスタンドはほぼ埋まっている状態。主催者発表によると、入場者数は11万5000人だという。これは昨年の決勝日と同じ規模の大入りだ。

 だが、日本のF1ファンが期待したホンダのPU(パワーユニット)を積むアストン・マーチンホンダの2台は、スターティンググリッドでは最後列に沈んだ。

 オーストラリアでの開幕戦、続く中国上海での第2戦における結果を踏まえると、詰めかけたF1ファンにとって、アストン・マーチンホンダの不調は織り込み済みだったかもしれない。

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2026年のF1日本グランプリ、アストン・マーチンホンダのピット裏で走行後のタイヤの状態をチェックするチーム関係者(写真:筆者撮影)

不調の理由はパワーユニットの振動

 決勝前、ホンダのF1事業を統括するホンダレーシング(HRC)の渡辺康治社長はメディア関係者に対して、今シーズンのこれまでの不振の原因を説明した。

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2026年F1日本グランプリ決勝当日、メディア関係者らにホンダF1の現状を説明するHRCの渡辺康治社長(写真:筆者撮影)

 それによると、シーズンに向けたスペインでのF1合同テスト前の段階で問題が生じたのだという。ホンダの国内開発拠点で、PU単体で行ったレース環境を想定したテストでは「PUの振動は(実戦で)許容範囲だと想定していた」という。だが「車体(シャシー)に取り付けて走行すると共振して振動が大きくなった」のだと説明した。

 その振動は、ドライバーのみならず、車載バッテリーへの影響が大きい。

 今シーズンからPUの規定が大きく変わり、ハイブリッドの機能は昨シーズンと比べてモーター出力が3倍に拡大し、エンジンとモーターがほぼ同じ出力になった。それゆえに、バッテリーの高性能化と耐久力が問われる。バッテリーは年間を通じて1台当たり3基しか使えない。

 原因究明に向けてアストン・マーチンとホンダがまさに「ワンチーム」で取り組んでおり、「今日の目標は(ホンダの)ホームである鈴鹿での完走だ。(PUを含めたマシン全体の)信頼性はだいぶ上がっている」と決勝に望みをかけた。

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2026年F1日本グランプリ決勝スタートの約20分前、グランドスタンドから見た様子(写真:筆者撮影)

 そして迎えた決勝には13万人のファンが来場し、レースウイークエンドには合計31万5000人まで増えていった。実に、2006年以来20年ぶりに30万人を超えたのだ。

上限のある開発予算の中で何ができるか

 そんな中、メルセデス・ベンツ、マクラーレン、フェラーリによる上位争いがあり、メルセデス・ベンツのキミ・アントネッリ(19歳)が第2戦に次いで、今シーズン2連勝した。アストン・マーチンホンダは2台のうち、フェルナンド・アロンソが今シーズン初の完走を果たした。

 続く第4戦のバーレーングランプリと第5戦のサウジアラビアグランプリは中東情勢によって中止となった。そのためホンダはこの1カ月間、PUの振動問題の解決に、全力で取り組むことができる。

 ホンダの、2026年シーズンのPUに対するコストキャップ(開発予算制限)は1億3000万ドル(1ドル160円換算で208億円)。この中で課題解決や信頼性の向上、さらには現状ではほかのメーカーが優位とされているエンジン側の出力アップ関連の開発を進めなければならない。

 また、車体を含めたチーム全体でのコストキャップを含めた、トータルマネージメントの重要性が増すことになる。

 HRCの渡辺社長は「コストキャップによって(ホンダにとって様々な要因に対する)ハードルは高い」と本音を漏らした。

アメリカのEV市場転換のあおりをうけたホンダ

 ここで話を、ホンダ本体の事業へ移す。直近で最も大きな注目を集めたのは、3月12日の緊急オンライン会見だ。

 2026年3月期と2027年3月期で最大2兆5000億円の損失を計上して、EVを含めた電動化戦略の抜本的な見直しを図るとした。そのため、2026年3月期は最大6900億円の赤字になる見通しだ。ホンダが上場して以来、赤字転落するのは初めてとなる。

 こうした決断を下した背景には、アメリカでのEV市場の大きな変化がある。

 時計の針を戻すと、2010年代のオバマ政権ではEVを含めた次世代車開発とアメリカ国内生産を連邦政府による低利子融資や多額の補助金などで後押しした。その成果のひとつが、テスラの躍進だ。

 だが、第1次トランプ政権ではEV市場拡大に対して慎重な姿勢となり、続くバイデン政権では再びEVなど次世代環境車の普及を強化する各種の政策を打った。その中でも、IRA(インフレ抑制法)により関連部品を含めてEVの国内生産強化を推進した。

 ところが、第2次トランプ政権では再び揺り戻しがきた。バイデン政権の環境関連政策を180度転換し、IRAにおけるEV購入時の最大7500ドルの税額控除を昨年9月末で廃止した。

 そのほか、企業間平均燃費(CAFE)やカリフォルニア州の環境規制ACC2(アドバンスド・クリーン・カーズ・ツー)の規制緩和にも及んだ。

 こうした北米EV市場の急変に対して、デトロイト3(GM、フォード、ステランティス)は相次いでEV事業戦略を大幅に見直し、それに伴い巨額の損失を計上すると発表。

 四輪販売台数ベースでグローバル市場のうち約半数を北米市場に依存しているホンダにとっても、デトロイト3と同様にEV戦略見直しをせざるを得なかったと言える。

ソニーとの共同開発の行方は?

 この影響は、ソニー・ホンダモビリティにも及んだ。

 3月12日のホンダ緊急オンライン会見では、記者からソニー・ホンダモビリティへの影響に関する質問があった。だがホンダの三部俊宏社長は「今後の事業展開の方向性を株主間で協議するが、今日時点で決まったことはない」と回答していた。

 そうした協議を経て3月25日、ソニー・ホンダモビリティ、ソニーグループ、ホンダの3社は「ソニー・ホンダモビリティの事業方針の見直し」をニュースリリースした。

 それによると、第1弾モデル「AFEELA 1 (アフィーラワン)」および第2弾モデルの開発と販売を中止。今後については、EVを取り巻く最新の市場環境を踏まえて、今一度、ジョイント・ベンチャーの設立主旨に立ち返り、中長期的なソニー・ホンダモビリティのあり方、モビリティの進化への貢献の可能性、事業の方向性について3社で協議・検討を行い、明確化した上で、なるべく早いタイミングで公表するとした。

 ソニー・ホンダモビリティにとっては、カリフォルニア州を起点に事業拡大を計画しており、「ACC2」におけるカリフォルニア州の環境施策の方針転換の影響が極めて大きい。

 では、コストキャップがあるとはいえ、ホンダ本体の事業が厳しい時に、巨額の資金と社内人材を含めた大きなリソースを必要とするF1に、ホンダが参戦し続けることが本当に必要なのか。

苦境に陥るホンダがF1参戦を続ける意義

 この点について、ホンダ社内外の関係者、メディア、F1ファン、そして量産車におけるホンダファンなど、それぞれの立場によってさまざまな見方がある。

 ホンダは現在のF1参戦の意義を、「世界最高峰の技術開発の、量産事業へのフィードバック」「短期間に結果を出さなければならないアジャイル開発における人材育成」などとしている。

 こうした考え方は、自動車メーカーが大規模なモータースポーツに自社の資金を投じて参戦する場合の常套句である。

 もちろん、「ホンダ=F1」というイメージを抱いている人も確かに存在する。しかし近年のF1ブームでは、自動車メーカーの関わり方とそこから得られる事業としてのベネフィットも変化している。それゆえに、ホンダがF1参戦に対するメリットを明確に掲げることは難しくなっている。

 いずれにしても、ホンダ本体の事業と、PUメーカーとしてのF1参戦は、決して別物ではない。

 それぞれにおいて、ホンダはV字回復を目指して歩み続けることになる。

展示パネルにあるメッセージ

 鈴鹿サーキットには、歴代F1マシンや歴代PUなどを公開するホンダ・レーシングギャラリーの中に次のような展示パネルがある。

不調の理由はパワーユニットの振動, 上限のある開発予算の中で何ができるか, アメリカのEV市場転換のあおりをうけたホンダ, ソニーとの共同開発の行方は?, 苦境に陥るホンダがF1参戦を続ける意義, 展示パネルにあるメッセージ

ホンダレーシングギャラリーでの展示パネル(写真:筆者撮影)

黎明期から持ち続けてきたレースへの情熱。

それは決して絶えることなく、

自らの夢である最高峰への挑戦は続いていく。

 ホンダの再起に期待したい。

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