トヨタ新社長にソニー…なぜ今、企業トップに「CFO経験者」が重用されるのか

ソニーにトヨタ…近年、CFO出身の社長が目立っています。

「社長は現場叩き上げ」——そんなCEO像が書き換えられつつある。

4月1日、トヨタ自動車の新社長・CEOに就任する近健太氏は、CFO(最高財務責任者)出身。財務・経理畑からトップに立つのは、同社では異例の人事だ。

この動きはトヨタに限らない。近年、大企業を中心に「CFO→CEO」というキャリアが目立ち始めている。

なぜ今、企業は“現場”ではなく“資本”を見てきた人材に舵取りを託すのか。

「CFO→CEO」の静かな増加

2025年以降にCFOからCEO・社長への昇格が発表された代表的なケース。※HDはホールディングスの略

CFOとは、企業の財務戦略、つまり企業価値の最大化に向けて資金調達や投資判断を管理する責任者だ。投資家向け広報(IR)の責任者や銀行に対する窓口を兼ねることも多い。単なる財務部門や経理部門の責任者、つまり「金庫番」とは異なる役割を持っている。

日本で初めてCFOという呼称が現れたのは1995年のソニーとされているが、それまでの日本企業では「財務担当」「財務(資金)部長」といった役職が部分的にCFOの役割を担っていた。経営管理部門の傘下に財務やIRの部門があり、担当役員がCFOと名乗っていないケースもある。業種にもよるが、日本企業で財務畑出身のトップは必ずしも珍しいわけではない。

CFO経験のある人間がCEOに昇格するケースは最近の報道で目立つ。だが、それは一時的な印象なのか、それとも明確なトレンドなのか。実数を正確に比較した報告は見当たらず、全体像は見えにくい。

筆者が上場企約4000社の2005年以降の「代表取締役の異動」「役員人事」に関する開示資料の中に、「CFO」あるいは「最高財務責任者」の文字列を含む件数を集計したところ、下図の通り2020年前頃から大きく増えている。CFOという役割・呼称が日本企業に浸透したことの現れだろう。

開示資料に「CFO」が登場する回数の推移。上場企業の「代表取締役の異動」「役員人事」に関する開示資料。「CFO」あるいは「最高財務責任者」の文字列を含む件数を集計した。

その上で、文字通り「CFO」を経験した人間が社長やCEOに昇格した件数を、AIの力を借りながら目視で集計してみた。ざっくりとした数字として捉えてほしいが、2010年代まではまばらだった件数が、2021年以降は少なくとも毎年5件ずつ、継続的にCEOへ昇格している。直近10年でCFOという役割・呼称が浸透していったことで、その中から一定数CEOへと昇格する人事があったと考えると筋は通る。

なお、海外では経営人材仲介会社によるCEOのキャリアに関するさまざまな統計が存在しており、米国(S&P1500社)では10%前後(スペンサー・スチュアート)、全世界では20%前後(ハイドリック&ストラグルズ)がCFO経験をもつCEOだという。

なぜ今、CFO出身社長なのか

財務に精通した人間がトップに任命されるのはどういう理由からだろうか。

一般的には、コスト意識を強めて「守り」を固めるためとされる。

古い話となるが、1983年10月13日付の日本経済新聞朝刊によれば、当時の日本能率協会の畠山芳雄理事長が1973年の「第一次オイルショック後、しばらくは経理、財務畑出身の社長が目立った」と話している。競争環境の変化を合理化・効率化などで乗り越えようとするには財務知識が必須となるためだ。

一方、規律ある「攻め」のため、財務に精通した人間を起用するケースもある。攻めに向けた資源の再配分や投資判断、資金調達にも財務知識が必要となるからだ。

たとえば、丸紅で2008年から社長を務めた朝田照男氏は大手商社では初の財務畑出身のトップ、双日の佐藤洋二氏(2012年にCFOから社長に昇格)も同社初の財務畑出身トップだった。両社とも財務面に不安を抱えていたが、社長交代後に不採算事業を縮小し、生まれた資源を成長分野に投資することで、一定の成長を上げている。

実は、それだけではない。近年はCFO経験が重要となる、二つの環境変化が存在する。