「脱線半減・復旧3割短縮」へ…JR東日本が導入する驚きの新技術とは?

新橋駅構内でのドローン飛行試験の様子(JR東日本提供)
今年に入って事故・トラブルが相次いでいるJR東日本。輸送の安全・安定性向上が求められる中、3月10日の定例社長会見で2つの新技術導入が発表された。それが地震による脱線リスクを低減する新たなダンパーの新幹線への導入と、輸送障害時の設備点検にAI画像解析とドローンを導入するというものだ。「鉄道の未来」を感じさせる新技術の効果とは。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
東日本大震災以降に本格化した
車両の左右動対策の研究開発
地震対策から見ていこう。東北・上越新幹線では2004年の新潟中越地震、2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)、2022年の福島県沖地震で、走行中の新幹線が脱線する事故が発生した。
脱線の危険性は地震動の周波数で決まる。周波数が低い場合は、車体が左右に揺れ、左右の車輪が交互にレールから離れて上昇しては再びレール上に戻る。戻る際に車輪がレールからずれると脱線してしまう。一方、周波数が高い場合は、台車が左右に揺れ、車輪がレールに強く押し付けられることで、レールを乗り上げて脱線する。
地震対策はこれまで、構造物の耐震性向上、早期地震検知システムによる速やかな減速・停止、脱線時の車両逸脱防止など多層的、複合的に進められてきたが、車両の左右動対策は中越地震後の2008年に研究が始まり、東日本大震災以降に開発が本格化した。
従来のダンパーに比べて
脱線確率は最大5割低減
ダンパーとはオイルとガスの圧力を用いて振動周期を減衰させる機構で、自動車ではショックアブソーバーとも呼ばれる。鉄道車両も走行安定性や快適性を向上させるためにさまざまなダンパーを設置しているが、台車と車体を接続して横揺れを減衰しているのが「左右動ダンパー」である。

試験時の様子(JR東日本提供)
JR東日本が開発したダンパーは、営業運転時は通常のダンパーと同様に車体の揺れを抑制しつつ、地震発生時は電磁弁を切り替えて減衰力を高める。幅広い周波数の揺れに対応可能で、脱線確率は最大5割低減するという。2021年登場の高速試験電車「ALFA-X」に搭載して各種試験・性能評価を重ねてきたが、ようやく実用化の目途が立った形だ。

地震対策左右動ダンパのはたらき(鉄道総合技術研究所提供)
最大の特徴は現行の左右動ダンパーと通常時の性能面、形状面で互換性があることで、今後の新型車両だけでなく、既存車両も取り換えで対応できる。2027年秋から取り換えを開始し、E5系・E6系・E8系は2031年度、E7系は2032年度までに導入する計画だ。
パンタグラフ監視カメラを導入し
AI画像解析で故障個所を特定
もうひとつの新技術は、輸送障害対応だ。JR東日本は1月に山手線・京浜東北線、常磐線、2月に宇都宮線で停電事故が発生するなど、電気関係のトラブルが相次いでいる。
そもそも事故が起こらないようにすべきとの指摘はもっともだが、輸送障害の規模を抑制し、早期の運転再開を実現する取り組みも並行して進めなくてはならない。
そこでJR東日本は、2026年度から山手線にパンタグラフ監視カメラを導入し、パンタグラフの状態をAIが画像解析することで故障個所を早期に特定。また、設備点検時間を短縮すべく遠隔操作ドローンを導入する。
現状では、設備故障が発生した場合、技術関係の係員が現地に出向いて故障箇所の特定と状態確認を行っているが、移動と徒歩点検には長時間を要する。2025年5月22日に山手線で発生した架線切断事故では、21時40分に複数の列車でパンタグラフの損傷が確認されたが、新橋駅構内の架線設備損傷を発見したのは深夜0時30分、運転再開は翌朝のことだった。
架線が垂れ下がる、部品が外れるなどの問題が生じると、通過列車のパンタグラフが損傷することがあり、損傷したままそのまま走行すると他区間の架線まで損傷させてしまう。初動が遅れれば、全線の徒歩点検、全車両の安全確認が必要になり、それぞれの区間への移動時間を含め、点検時間は拡大する。
トラブルの拡大を防ぐには損傷の早期発見が肝要であり、早期に発見すれば点検区間を絞り込める。しかし、パンタグラフの監視はこれまで車庫への入出庫時に限られていたため、4月に営業列車を監視するカメラを恵比寿、鶯谷に設置する。
カメラは1列車当たり300~400枚の写真を撮影し、物体検出AIでパンタグラフの画像のみを抽出。これを損傷検知AIが正常な形状と照合し、異常がある場合は指令所に通報、指令員は直ちに列車を抑止する仕組みだ。4月から試行を開始し、8月に新橋と目白に増設予定だ。
監視カメラやドローン活用で
復旧時間を約3割削減
そして、いち早く現地の状態確認を行うのがドローンだ。山手線沿線にドローンドックを10カ所程度設置、設備故障が発生した際、指令所から遠隔手動操縦で現地に飛行し、搭載カメラで設備点検を行う。橋梁など大規模施設の定期的な状態監視にドローンを使用する事業者はあるが、輸送障害時の活用は日本初という。

ドローンとドローンドック(JR東日本提供)
飛行空間が限定され、ビルなど遮蔽物が多く通信環境が厳しい都市部へのドローン導入は簡単ではないが、JR東日本は今年1月下旬、山手線新橋駅付近で飛行試験を行い、LTE(4G)通信環境下で安定飛行が可能なこと、夜間においても鮮明な映像取得が可能なことを確認している。
架線金具など小さな部品も鮮明に撮影可能で、映像は即座に関係社員のパソコンやタブレット、スマートフォンに共有できる。これによりAIやドローンが点検対象を絞り込み、限られた人員を集中的に投入する体制を目指すとしている。今後はドローンの鉄道施設への衝突や敷地外への逸脱を防ぐ安全システムの試験を行い、今年秋から試行導入予定だ。
同社のシミュレーションでは、復旧に約7時間を要したトラブルで2時間程度の短縮が期待できるなど、約30%程度の復旧時間削減が見込めるという。監視カメラ、ドローンとも山手線での試行からスタートするが、今後は他の在来線、新幹線への拡大を検討している。
鉄道業界でもようやく「未来」を感じさせる取り組みが形になってきたが、せっかくの新技術も活用できなければ意味がない。限られた人員の効率的、効果的な運用を、AIやドローンなど新技術がバックアップする形を確立できるのか。JR東日本の取り組みは人間とデジタルの役割分担に悩む鉄道業界の道しるべとなるだろう。