東大もUCバークレーも中退した21歳。「ロジカルに考えたら教育」で起業。なぜ苦境の塾なのか

トキツカゼ代表の谷津凜勇さん(21)。東京大学への入学後すぐに中退してUCバークレーに進学。ただ、同大学も2年で中退し、日本で「教育」に携わるスタートアップ起業を創業した。

東京大学に入学後、すぐに中退してアメリカの名門・カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)に進学。しかし、バークレーも2年で中退。その数カ月後には、日本に帰国してスタートアップを起業——。

わずか21歳ながら波乱万丈なキャリアを歩む若者がいる。トキツカゼの代表を務める谷津凜勇(たにつ・りんゆう)さんだ。

「これ以上何を学べば良いのか、大学にいても見えてこなかった。であれば日本に帰って自分の価値を示した方が、傲慢な言い方かもしれないけど、日本の未来のためになると思ったんです」

関西にある中高一貫の名門私立に通っていた当時から、「成績がいい」という理由だけで東大や京大、医学部へ進学する同世代に対して違和感を感じていた。「もっとみんな自分らしく学べば良いのに」。教育に興味を持ったきっかけだった。

少子化などの影響で競争が激化している塾業界。2025年は塾の倒産件数も過去最多に。とりわけ、地域の「教育インフラ」ともいえる中小塾は苦境に陥っている。トキツカゼでは、そんな地域の塾を事業承継する。

なぜ大学をやめてまで、「教育」という一筋縄ではいかない業界に飛び込んだのか。大学受験偏重の業界で、受験の先まで見据えた「その人らしい進路選択」を増やしたいと谷津さんは話す。原動力はどこにあるのか。

大学進学が目的化した教育。感じ続けた「違和感」

谷津さんは、2025年10月にトキツカゼを創業した。

「共通テストで点数がいまいちだったら、もともと京大の経済学部志望だったのに京大の文学部に志望を変える——。そういう話をしている人が結構いて、『いや、そういうことじゃなくない?』と」

谷津さんが通っていたのは中高一貫校。ともすれば、自分自身がその環境に染まってしまう可能性もあった。

ただ、当時はコロナ禍。谷津さんは課外活動に勤しむ傍ら、SNSなどを通じて全国の中高生とつながり、お互いの活動や感じていたことを語り合っていた。学校とは異なる価値観に触れ続けたことで、大学進学が目的化した教育に対する違和感はずっと残った。「自分が選ぶ」ことの意味を考え続けていた。

読書が好きだったこと、文章を書くことが得意だったこともあり、高校在学中には、「読書教育」の活動に力を注いでいた。児童書を紹介するフリーマガジンを累計で1万5000部以上発行。本を通じて、子どもたちがどう自己成長していくか、考えるようになっていった。

谷津さんが作った児童書を紹介するフリーペーパー。

自らも自分らしい生き方をしたいと考えていた谷津さん。大学も、「全く未来が想像できないところへ行こう」とアメリカの大学への進学を希望。同時に東大にも合格したのは、「親を納得させるため」だった。東大入学後、半年ほどで中退すると、2023年の9月からはアメリカのUCバークレーに進学し、教育学を専攻した。

「体系的に学ぶより活動を通して知識を身に着けるタイプ」と語る谷津さん。東大時代から、NPOなどで中高生向けの探究学習やキャリア教育などの支援にも携わった。渡米後、今度は「ビジネスも」と、オンラインで社会人向け動画学習サービスを提供するSchoo(スクー)や、人材大手のリクルートといった国内企業でインターンを始めた。

スクーはインターン中に上場(2024年10月)を果たし、スタートアップが社会を変えていく様を間近で感じていた。一方で、リクルートでは大企業の強さも目の当たりした。「インターンをする中で、今すぐに社会を変えるならビジネスだと思いました」と谷津さんは言う。タイミングは分からないが、いずれ起業しようと当時から考えていた。

ロジカルに考えて、起業するなら「教育」だった

UCバークレー在学時の谷津さん。

ただ、そのタイミングは思いのほかすぐにやってきた。谷津さんはUCバークレーでの大学生活2年目を終える2025年5月に中退し、日本での起業を決意する。決断の決め手は何だったのか。

「正直、アメリカでこれ以上何を学べばよいのか、見えなかったというのもあります。(現地での学びの中心はアメリカ特有のものも多く)日本に戻っても生かしにくいなと。僕自身、大学の学びとの相性も悪かった」

起業分野はすぐに決まった。社会に対してインパクトを出し続けたい。自分が何をすれば、最も価値を出せるのか考えた。「結局、社会を作っているのは人」。谷津さんは言う。

「人に対して何が最も影響を与えるのか。ロジカルに考えて、行きつくのは『教育』だよなと

教育は、自身のこれまでの経験も生かせる分野だった。アメリカで学び続けるより、帰国してそこでバリューを発揮する方が、日本のためになると思った。そう考えると、あと2年大学に通いながら学生起業家として活動する選択肢はなかった。

UCバークレーをやめた当初は「教育で起業する」ということ以外、プランはなかった。ただ帰国後、アクセラレーターへの参加やVCとの対話、NPOで一緒に活動していた現共同創業者らとも議論を繰り返しながら、事業内容をいちから検討していった。こうして5カ月後の2025年10月に創業したのが、トキツカゼだった。

「塾」という地域の「教育インフラ」を未来に

(写真はイメージです)

トキツカゼは、塾の事業承継を主な事業としている。中小規模の塾を対象に連続的にM&Aを進め、短期間で事業規模の拡大を目指すロールアップ企業だ。買収・承継するのは、主に地域密着型の塾で、まずは一都三県から進めていく。

「例えば地域密着で数十年続いているような塾では、塾長が経営者として敏腕というより、教育者としてすごく優れているからこそ、そこまで続いてきたと思っています。ただ、塾長が60代、70代になっていく中で、後継者が課題になっています。そういった塾を未来にいかに残していけるかを模索していきたいと思っています」(谷津さん)