「中国製EV」が覆した日本車中古神話!「アフリカ新興国」で何が起きているのか?50万台普及で明らかになった日本企業の戦略的課題
燃料負担が招いた輸入禁止
アフリカ東部に位置するエチオピアは、1億2000万人を超える人口を抱える内陸国だ。石油資源を自前で持たず、物資の輸送を隣国の港に依存する地理的な条件もあり、燃料価格の高騰や外貨の不足が経済に及ぼす影響は極めて大きい。一方で、豊富な水資源による発電の潜在能力を秘めている。
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エチオピア政府は2024年1月、内燃機関車の輸入禁止に踏み切った。これは環境対策という面よりも、輸入燃料に頼る構造を改め、
「外貨の流出を抑え込むため」
の強い手段とみるべきだろう。同国の燃料支出は年45億ドルを超える。輸送に使う力を石油から電力へ移せば、外貨の流出を直接抑えられる。
エチオピアは2023年末に債務不履行に陥り、2024年7月には国際通貨基金から34億ドルの支援を受ける状況にあった。輸入車の規制は、国の資金繰りを守るための政策として行われた。移動を支えるために外貨を流し続けることが、国の存続を揺るがす段階に達していた。この方針を支えたのは、
「自国でエネルギーをまかなう動きが進んでいた」
ことだ。大エチオピア再生ルネサンスダムは2022年に初号機が動き始め、2025年9月には出力5150MWに達した。総事業費50億ドル規模の水力発電所は、経済的な自立を支える土台となる。高価な石油を買い続けるより、自国の電気で走る車を増やす方が収支の改善につながる。
走行に必要な力を、ドルで払う石油から自国通貨で扱える電力へ切り替える狙いは、外の情勢に左右されにくい体制をつくることにある。紅海などの物流の道が不安定でも、自国で発電できれば国内の物流を保てる。
ただし、発電量が増えても、それがそのまま全国での安定供給を意味するわけではない。2022年時点で都市の電化率は94%だったが、全国平均は55%にとどまる。送電や配電の網が弱いままでは、発電所が動いても実際の走行環境とは結びつかないのだ。
税制優遇が押し上げた中国製EV

中国製EVのイメージ(画像:BYD)
市場が短い期間で動いた理由は、ガソリン車の輸入禁止だけではない。決定的だったのは、内燃機関車と電気自動車(EV)の間に大きな税負担の差を設けた点だ。エンジン車の輸入には付加価値税15%、物品税は最大100%、付加税10%、源泉税3%が課される。一方で完成車EVの負担は15%に抑えられ、一部を組み立てる車両は5%まで下がる。
この差により、消費者も輸入業者も従来のガソリン車を選ぶ理由を失った。政府は供給を止めるだけでなく、税の構造を変えることで市場の流れを大きく変えた。その結果、国内のEVは2024年に3万台を超え、2025年には10万台を上回る規模に達した。政府は今後10年で50万台を広げ、燃料車の95%にあたる43万2000台を置き換える目標を掲げる。政策は導入段階を終え、車の入れ替えが本格化している。ここで大きく伸びたのが
「中国製EV」
である。外貨に余裕がない国では、購入時の価格が広がりの速さを左右する。性能よりも、安くすぐ手に入ることが重視された。実際、首都のアディスアベバでは、輸入禁止前には手頃だった中古の「スズキ・ディザイア」が420万ブル(423万円)を超える値で取引される一方、比亜迪(BYD)の小型EV「シーガル」は360万ブル(362万円)で売られている。長く共有されてきた
「日本車の中古車は資産」
という見方は、政府の強い税優遇によって価格面で崩れた。この変化は、政府が輸入規制と税制でこれまでの流れを止めたことで起きたものだ。中国メーカーは、示された条件に最も早く合う製品を供給し、地位を固めた。
車両だけでなく、制御技術や充電規格にも中国の技術が広がっている。将来の整備や関連するデータ基盤も、特定の技術に依存する形になりつつあるのだ。
基盤整備の遅れが生む混乱

自動車整備のイメージ(画像:写真AC)
車の導入と運用を支える基盤の整備は、足並みがそろっていない。2024年時点で、充電拠点は約50か所にとどまると報じられた。EVが7万台規模に達していた時期としては、明らかに足りない数だ。拠点が首都などの都市に偏れば、地方での利用は見込みにくい。発電量が増えても、必要な場所で安定して電気を使えなければ、交通手段としては不十分だ。
ここで示されているのは、段階を飛び越える進め方である。すべての国がガソリンスタンドや製油所、燃料の運搬網、整備工場を長い時間をかけて整える必要はない。再生可能エネルギーが豊富なら、それらを経ずに電気中心へ移る。石油に関わる基盤を広げるより、自国の電気と充電拠点に資金を向ける方が理にかなうという考えだ。政府にとっては、外貨を守り自給を高める手立てでもある。
だが現場は厳しい。充電設備が故障や停電で使えない例が目立つ。さらに深刻なのは、修理を担う人手の不足だ。輸入車種が増えたことで、手引書が中国語のままだったり、部品が届かなかったりする。これまで経験で直せた車も、高度な制御や高電圧電池の不具合には、既存の町工場では対応が難しい。燃料輸入の負担は減っても、その代わりに現場では車が動かなくなる不確実さが増えている。
政府は対策として、主な道路沿いに50kmから120kmごとに充電設備を整える方針を示すが、車の増え方に追いついていない。その結果、充電待ちや修理不能、部品不足が日常の移動に支障を生む。車が止まれば仕事も物流も滞る。成否を分けるのは、故障してもすぐ直し、動かし続けられる体制をどれだけ早く整えられるかにあるのだ。
運用体制が決める成否

EV充電ステーションのイメージ(画像:写真AC)
エチオピアの事例は、再生可能エネルギーが豊富で外貨が大きく不足する新興国が、これまでの産業の流れを飛び越えて電動化へ進む現実的な形を示した。年45億ドルを超える燃料代を払い続ける国にとって、使うエネルギーを輸入の石油から国内の電力へ切り替える考えは、収支の面でも筋が通る。給油所や燃料の運搬網を広げるのではなく、電気を軸とした移動へ一気に移る。この点が各国の関心を集めている。
一方で、政策がうまく進むかは、走る車の数だけでは決まらない。重要なのは、その裏側にある
「保守と管理の体制をどれだけ早く整えられるか」
にある。充電器や配電設備、交換部品、不具合を見つける機器、修理を担う人材、管理のための方法がそろわなければ、輸入禁止は新たな市場を生むどころか、利用者の負担を先に延ばすだけに終わる。
車だけを増やしても、修理ができず、部品も届かず、電気も安定しない状態では、そのEVは価値を保てず、動かなくなる恐れのある機械にとどまる。
また、数年後に車を売る際の中古価格が見通せないことも大きな不安材料だ。電池の劣化を客観的に見極める方法がなければ、中古市場は機能せず、買い替えの流れが止まる。さらに、自宅で充電できる層と公共の設備に頼る層との間で、移動の確実さに差が出ることも避けられない。車を広げるのと同じ重みで、それを支える基盤の整備が急がれている。
日本企業の活路

エチオピアの国家的なEV戦略。
日本企業にとっての商機は、車を売ることよりも、それらを動かし続けるための基盤を支える点にある。
・急速充電の設備
・送配電の制御
・故障を見つける方法
・整備士の育成
・補修部品の流通
といった分野は、車が増えた後に必ず必要となる。新興国では、販売台数よりも、売った車をどれだけ長く安定して動かせるかが重視される。
車の価格で中国メーカーと競うのではなく、電圧が不安定な電力網でも無理なく充電できる管理技術や、多様な車種に対応できる修理支援など、技術と機器を組み合わせて基盤を支える役割に活路がある。また、使い終えた車載電池を家庭用や産業用の蓄電池として活用する方法を整えれば、限られた資源を国内で循環させる助けになる。
エチオピアが進めているのは、移動手段を電気に置き換えることにとどまらない。外貨不足に直面する国が、エネルギー供給や貿易、税、交通の構造を一体で変えようとする取り組みである。この試みが根付くか、利用者に不便を残すかは、これからの運用基盤をどこまで整えられるかにかかっている。
壊れにくい製品をつくる強みに加え、壊れてもすぐ直せる体制や、事前に不具合を見つける方法を提供できるかが、今後の位置取りを左右するのだ。