なぜ旅をしながら稼げる?「おてつたび」の仕組み

新語・流行語大賞にノミネートされた「おてつたび」(写真:おてつたび)
すぐに働き手が集まる画期的仕組みとは?
日本の地方には、著名な観光名所もなく全国的な知名度は低いものの、自然や文化、産業など固有の魅力を備えた地域が数多く存在する。しかし、そうした地域に人々が訪れる機会は限られ、交流人口の拡大や地域の認知度向上につながりにくいという課題がある。人口減少や都市部への一極集中が進む中で、地域が持つ魅力を発信し、人を呼び込む仕組みをどう構築するかは長年の社会課題となっていた。
【画像でわかる】「旅をしながら報酬を得る」旅行のビジネスモデル
同時に、農業や宿泊業をはじめとする地域の事業者は、後継者・人手不足に悩まされている。特に収穫期や観光シーズンなど特定の時期、人手不足は深刻だ。繁忙期に合わせて人材を確保することは難しく、正規雇用で常に人を雇い続けるのも現実的ではない。短期的かつ柔軟に労働力を確保できる仕組みが求められてきたものの、従来のアルバイト募集や派遣などでは必ずしも地域事業者のニーズに十分対応できていなかったのである。
2018年に創業した「おてつたび」は、こうした地域と事業者双方の課題を背景に、「お手伝い」と「旅」を組み合わせた新しい形のマッチングプラットフォームで、地域の短期的・季節的な人手不足に悩む事業者と、報酬を得ながら旅を楽しみたい旅行者を結びつける仕組みを提供している。
最短1泊2日から2カ月までの幅広い募集期間に対応できるため、事業者にとっては観光シーズンに宿泊施設のスタッフが不足する場合や、農家が収穫期に人手を求める場合など、特定のタイミングで労働力を補える点は大きな強みだ。また、旅行者にとっても旅行日程に応じて選択ができるため大きな魅力となっている。
2018年時点のビジネスモデル

どんな地域にも、働き手がすぐに集まる仕組みが構築されている(図版:KADOKAWA)
ただ、創業当初は事業の立ち上げに大きな困難が伴った。「そんなサービスで人が来るのか?」「お手伝い感覚で仕事をされても困る」といった懐疑的な声もあり、受け入れ先の事業者を一つずつ地道に説得してまわる日々が続いたという。当初は旅館など5件の事業者からはじまり、代表が自ら現地に足を運んで制度を説明し、少しずつ信頼を築いていったのである。
「旅をしながら報酬を得る」旅行スタイル
おてつたびの魅力は「旅をしながら報酬を得る」という新しい旅行スタイルを実現している点だ。通常、旅行には交通費や宿泊費などがかかるものだが、おてつたびでは交通費こそ原則自己負担ではあるものの宿泊費は不要で、費用を抑えつつ旅が続けられる。また、単なる観光ではなく、地域の人々と共に働き交流することで、その土地の文化や生活を深く理解できる。通常の観光旅行では得られない「地域とのつながり」を築いたり、訪れた地域に特別な思い入れを抱いたりすることで、将来的に長期的な関係人口へと発展する可能性を持っているのだ。
このように、報酬を得ながら特別な体験を得るという旅行者側の価値と、必要な時期に労働力を確保できる事業者側にとっての価値のかけ算により、地域活性化や継続的な関係人口の創出につながる仕組みとして、おてつたびは注目されている。
立ちふさがった「現実」をどう乗り越えたか?
こうして、おてつたびを使って地域で働く人は増えてきたものの、地方では移動手段が限られ、交通費負担の大きさや、宿泊場所の確保が難しいなど物理的ハードルも多かった。また、受け入れ側の農家や宿泊業者の中にはITツールの使い方に不安を感じている人も多く、新しいサービスを活用しにくいという状況があった。このような現実が結果的に、地域全体の受け入れ体制を狭めていたのである。
だが、そのような現実的問題を乗り越えるべくとった「対応」と、行動による「結果」はこうだった。
対応:自治体や民間企業と連携し、参加と受け入れを支える
移動や宿泊、ITの活用に関する地域側の課題に対し、おてつたびは、自治体や企業と連携しながら一つひとつ壁を乗り越えようと動いた。すると、交通費や手数料の一部を補助する自治体も現れ、高齢の事業者に対しては導入支援を行うなど、地域がサービスを使いやすくする体制が整えられた。また、民間企業とも連携し、移動手段や体験機会の提供も進められることで、参加者と受け入れ先の接点が生まれやすくなっていった。
結果:一度きりでは終わらず、地域との関係が育った
おてつたびで地域と関わった人の約6割が、その後も何らかの形でその地域との関係を続けていて、訪れた土地を再び訪問したり、特産品を継続的に購入したり、中には移住する人も出てきている。旅や仕事をきっかけにしたつながりが、地域の応援者を増やす形で広がって、短期の人手支援にとどまらず、地域と人との新しい関係性を育てる仕組みとして定着しはじめたのだ。ここに、「おてつたび」というビジネスモデルの先進性が見て取れるのである。
●2025年時点のビジネスモデル

行政や企業との連携により、受け入れ先・旅行者・地域が「三方よし」の事業に(図版:KADOKAWA)