1800件超の商品が「機能性表示食品」やめました…紅こうじ問題以降進む規制強化 本当に「健康」つくれる?

 2024年3月に発覚した小林製薬(大阪市)の「紅こうじ」成分を使ったサプリメントの健康被害の発覚から約2年。問題となった「機能性表示食品」の基準の厳格化が進む中、1年で4分の1以上の商品の届け出が撤回されたことが判明した。一方で、依然として健康食品市場は拡大傾向。社会保障費が膨張する中、健康維持が「自己責任」と見なされつつある現状をどう考えるべきか。 (佐藤裕介、山田雄之)

◆「紅こうじ」の健康被害の記憶はもう薄れて

 この時期は多くの企業が健康診断を実施する。働く人々が健康で留意していることは何だろうか。「こちら特報部」は20日、会社員が行き交うJR新橋駅前を訪れた。

 「美容と健康にいいサプリを飲んでいる」。40代の会社員女性はお気に入りのユーチューバーがお勧めしていたサプリを毎日欠かさないという。「時々忘れてしまうと『ああ今日は体調が悪いなあ』と思うので効いていると思う」

◆「紅こうじ」の健康被害の記憶はもう薄れて, ◆2025年度末までに27%超に当たる1847件の撤回届け, ◆「既に過去に販売を終了していた機能性表示食品が多くあり…」, ◆安倍政権時に導入された「機能性をうたえる第3の制度」, ◆「健康の維持増進に役立っているとの証拠は皆無だ」

小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」

 50代会社員男性は「気休め程度で飲み会の時とかに時々ビタミン系の錠剤を飲んでいる」。2人とも2年前に大きな話題となった「紅こうじ」問題については「記憶はあるけど気にしていない」と話した。

◆2025年度末までに27%超に当たる1847件の撤回届け

 2024年3月22日、小林製薬が機能性表示食品として販売した「紅こうじ」成分入りサプリメントの消費者に腎疾患などが発生したと発表。その後の国による調査で、青カビに由来する「プベルル酸」が製造時に混入したことが原因と判明した。

 大阪市は昨年、工場での管理体制に複数の不備があったとする調査報告書を公表。工場に存在した青カビが混入した可能性に言及し、少なくとも約2700人が健康被害に遭ったと認定した。

 「紅こうじ」問題を受け、国は機能性表示食品の規制強化に着手。健康被害の情報報告を義務化し、サプリ製造は品質の厳しい基準「GMP(適正製造規範)」の対象にした。

 さらに、2025年度からは、機能性表示食品として届け出た後、安全性や機能性の科学的根拠や品質管理などを自己点検して年1回、国に報告することを義務付けた。報告をしないまま販売を継続すれば行政処分の対象となる。

 消費者庁によると、「機能性表示食品」の届け出が公表されていた6703件のうち、2025年度末までに27%超に当たる1847件の撤回届けが出された。さらに199件が先月末の期限までに自己点検の結果が提出されなかったという。

◆「既に過去に販売を終了していた機能性表示食品が多くあり…」

 多くの機能性表示食品の届け出が撤回されたことについて、消費者庁の担当者は「既に過去に販売を終了していた機能性表示食品が多くあり、それが一気に撤回されたということではないか」との見方を示す。

◆「紅こうじ」の健康被害の記憶はもう薄れて, ◆2025年度末までに27%超に当たる1847件の撤回届け, ◆「既に過去に販売を終了していた機能性表示食品が多くあり…」, ◆安倍政権時に導入された「機能性をうたえる第3の制度」, ◆「健康の維持増進に役立っているとの証拠は皆無だ」

消費者庁が作成した機能性表示食品に関するパンフレット

 ただ、これまで国が、商品が販売中なのか、販売を停止しているかを把握できていなかったことも露呈した。担当者は「一連の取り組みを通じて制度への信頼性を高め、消費者が商品を選択する際の判断基準の一つになればいい」と話す。

 もともと機能性表示食品は事実上、届け出のみで参入できる制度だったが、国の規制強化に製造側は何を思うのか。

 サプリメントなどの受託製造を手がける三生医薬(静岡県富士市)の又平芳春常務取締役は「紅こうじ」問題発覚後、受託製造企業でつくる業界団体を設立して安全対策や品質管理などに取り組んできたと強調。ただ「規制強化一辺倒だと市場は縮小してしまう」と先行きを懸念した上で「各社がルールを守り、国などともしっかり対話をしてこそ市場は健全に発展する」と話す。

◆安倍政権時に導入された「機能性をうたえる第3の制度」

 「おなかの調子を整える」「体脂肪を減らすのを助ける」などと期待できる効果(機能性)を表示する機能性表示食品。2015年、当時の安倍晋三政権が経済成長を目指す戦略として、ビタミンやミネラルなどの栄養機能食品、特定保健用食品(トクホ)に続いて、機能性をうたえる第3の制度として導入した。

 1991年に始まったトクホは、企業の申請を受け、国が安全性や機能性の科学的根拠を個別に審査し、表示を許可する。その根拠も、人に製品を摂取させて確かめた臨床試験データが必要となる。

 他方、機能性表示食品は、国の審査はなく、事業者が機能性と安全性に関する科学的根拠などを消費者庁に届け出れば、効能を表示できる。製品の試験データも必要とされていない。機能性を表示するためのハードルがトクホに比べ、大幅に規制緩和された制度になっている。

◆「紅こうじ」の健康被害の記憶はもう薄れて, ◆2025年度末までに27%超に当たる1847件の撤回届け, ◆「既に過去に販売を終了していた機能性表示食品が多くあり…」, ◆安倍政権時に導入された「機能性をうたえる第3の制度」, ◆「健康の維持増進に役立っているとの証拠は皆無だ」

商品パッケージに印字された「機能性表示食品」表記

 調査会社の富士経済によると、機能性表示食品を巡る国内市場は「紅こうじ」の問題があった以降も拡大している。サプリメントは2025年は2457億円を見込み、2026年は2494億円と予測。ヨーグルトやドリンクなどの健康志向食品でも同年の予測は前年見込みより60億円多い5338億円となる。

 同社の担当者はサプリについて「紅こうじの問題によるイメージダウンはあったが、40歳代以下や商品知識のあるユーザー層は過剰に反応せずに利用を継続した。プロテインブームが続くスポーツサポート、若年層向けの美容効果を狙った商品に根強いニーズがある」と説明。

 また、健康志向食品では「脂肪対策を訴える大手飲料メーカーの茶系飲料や、高血圧予防やコレステロール対策をうたった商品も市場拡大につながっている」と話す。

◆「健康の維持増進に役立っているとの証拠は皆無だ」

 「紅こうじ」問題を受けた機能性表示食品の規制強化は今後、業界にどのような影響を与えるのか。群馬大の高橋久仁子名誉教授(食生活教育)は「自己点検報告の義務化により、あふれ返っている製品の整備は少しは進むだろう」と評価する。

 一方で、健康被害の情報報告の義務化は「医師による判断まで報告が求められていない。そもそも消費者が機能性表示食品による健康被害だと疑う可能性は低く、大いに実効性に疑問が残る」と指摘する。

 機能性表示食品を含めた保健機能食品について、「健康の維持増進に役立っているとの証拠は皆無だ」と前置きした上で、高橋氏はこう訴える。

 「消費者は摂取すれば健康が得られるかのような幻想を抱き、錠剤やカプセルでは濃縮した成分を毎日飲む。有害成分が濃縮される恐れもある。本来であれば一般食品と切り離した健康食品の法律をつくり、厳しく規制しなければ危険だ。まずは制度の再点検が必須だ」

 健康食品の人気の背景には「健康は自分でつくるもの」という消費者の「自己責任」の心理が横たわる。「機能性表示食品の市場拡大は、公的な医療保険が頼れない存在になってきたことの表れである可能性がある」と話すのは、城西大の芝田英昭非常勤講師(社会学)だ。

 現在、国会で議論されている医療保険制度改革に向けた健康保険法などの改正案では、社会保障費削減のためにOTC類似薬の追加負担や、高額療養費の自己負担の月額上限引き上げへの対応が盛り込まれている。

 芝田氏は「健康自己責任論が強まれば、所得による健康格差が生まれる恐れがある。さらには判断を誤って『紅こうじ』のような食品を摂取したり、医療機関にかかるのが遅れたりすれば、生命が脅かされる場合も出てくる。必ずしも健康につながるとは考えられない」と危ぶむ。

◆デスクメモ

 食べたり、飲んだりすることで健康になるならありがたい。が、そんな都合のいい話はあるのかとも思う。先日、健康診断を受けたばかり。血中コレステロール値が悪化したのでトマトジュースを毎朝飲むように。この取材の途中、気になって商品を調べると、機能性表示食品でした。(祐)

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