「甘くない缶コーヒーは売れない」苦戦する「UCC BLACK無糖」を救った〈コンビニオーナーの鶴の一声〉

UCC上島珈琲の缶コーヒー「UCC BLACK無糖」 Photo by Manabu Fushimi

誕生から30年超、ロングセラーとなっている缶コーヒー「UCC BLACK無糖」。誰もが一度は見たことがある馴染みのあるパッケージで親しまれている商品だが、発売当初は「甘くないコーヒー」は受け入れられず、苦戦したという。そんな状況を打破するきっかけとなったのは、あるコンビニオーナーの提言だった。(フリーライター 伏見 学)

「UCC BLACK無糖」が

ロングセラーになったワケ

 コンビニや自動販売機で目にしない日はない、あの黒と白のデザイン。1994年に誕生したUCC上島珈琲の「UCC BLACK無糖」は、今や缶コーヒーのブラックカテゴリーを代表するブランドへと成長した。

 販売数は発売から堅実に推移し、約30年間で3.5倍に。現在は同社のコーヒー飲料カテゴリーの売り上げのおよそ3割を占める。

 しかしその道のりは、決してなだらかではなかった。

 バブル全盛の時代に市場から突き返されたが、あるコンビニオーナーからのフィードバックが商品に対する自信を作り、歳月をかけた技術革新が「香料無添加」の缶コーヒーを生んだ。ロングセラーの裏側に刻まれた、試行錯誤の32年を紐解く。

「甘くない」ブラックコーヒーは

売れなかった

 缶コーヒーの歴史は「甘さ」から始まった。1969年、UCCが世界で初めて開発した缶コーヒーは、ミルクと砂糖を加えた「ミルクコーヒー」だ。

 当時の主な愛飲者は、肉体労働に従事するブルーカラーの人々。甘さとミルクのコクで疲れを癒やす――それが缶コーヒーの役割だった。なお、ミルクコーヒーは累計約150億本以上も売れている。

特徴的なパッケージデザインで知られる「ミルクコーヒー」 Photo by M.F.

 しかし、そうした需要に飽き足らず、UCCはあえて「甘くない」ブラックコーヒーへの挑戦を繰り返していた。

 1987年、UCCは業界初の無糖コーヒー製品「UCCテイスティブラック」を発売。しかし市場の反応は鈍く、翌1988年には「UCCザ・コーヒー ブルーナイルモカ ブラック無糖」へと切り替え、「無糖」のアイコンを前面に打ち出す試みを重ねた。

 だが、大きな定着には至らなかった。やはり甘さがなければ消費者は手を伸ばさない。

 それでも、なぜUCCはブラックにこだわり続けたのか。UCC上島珈琲マーケティング本部飲料マーケティング部の紙谷雄志部長はこう語る。

「コーヒー専業メーカーとして、ブラックコーヒーで勝負したいという創業以来の思いがありました。ミルク入りが主流だった市場の中で、それでもブラックをおいしく届けたいという信念が強かったようです」

 その情熱がUCCを前に突き動かした。

コンビニオーナーの鶴の一声で

風向きが変わった

 UCC BLACK無糖が1994年に誕生した背景には、一人の社外の人間の執念もあった。

 UCCが前身商品のUCCザ・コーヒー ブルーナイルモカをコンビニ向けに全国展開しようとしたとき、POSデータ(販売時点管理データ)の数字は振るわなかった。コンビニ本部の商品担当者(MD)からは「やはり他社が強い。時期尚早では」と判断され、全国推奨の取り消し通知が届いた。

 ところが、長野県のあるコンビニ加盟店オーナーからの要望が事態を大きく動かした。

「常連のタクシー運転手たちが、週に10本は缶コーヒーを買うけれど、1~2本は健康を気にして無糖を選んでいると言っている。うちの店舗だけでも特別発注で仕入れたいので在庫を残しておいてほしい」

 バブル景気の真っただ中、健康意識など誰も気にしないように見えた時代に、現場のタクシー運転手はカロリー等を考えて缶コーヒーを選んでいた。このオーナーの訴えをきっかけに、長野地区限定で推奨が復活。同一JANコード(商品識別コード)で一度取り消した推奨を再び認めるのは、当時としては前例のない対応だった。

 この出来事が社内に「健康志向のニーズは存在する」という確信を生み、商品名をシンプルに変える機運が高まった。

「BLACK」というカテゴリー名をそのままブランド名にする。分かりやすさを最優先にしたこの発想から、1994年にUCC BLACK無糖が生まれたのである。

「香料無添加」が最大のこだわり

挑戦を続けた30年

 UCC BLACK無糖が30年以上守り続けてきた最大のこだわりは「香料無添加」だ。原材料はコーヒーのみ。添加物に頼らず、缶の中においしいコーヒーの香りを閉じ込めるのは、技術的にきわめて難しい挑戦だった。

 コーヒーの香りは、焙煎した豆を粉砕した瞬間に最も豊かに立ち上がる。しかし、その香りは揮発性が高く、粉砕直後から急速に消えていく。そこへ抽出という工程が加わると、高温になるほど香りはさらに飛んでしまう。

 さらに缶コーヒーには、充填後に長期保存を可能にするための加熱殺菌という工程が待ち受けており、その温度は抽出時よりも高い。つまり、豆が持つ香りのポテンシャルは、粉砕、抽出、充填、殺菌という各工程で段階的に失われていくのだ。

UCC上島珈琲 マーケティング本部 飲料マーケティング部の紙谷雄志部長 Photo by M.F.

「豆のポテンシャルをいかに残しながら、それぞれの工程を乗り越えるか。歳月をかけて技術を積み上げてきました」と紙谷氏は説明する。

 香料を使えば簡単に安定した香りを再現できる。それでもUCCがその誘惑に乗らなかったのは、コーヒー専業メーカーとしての矜持からだ。初代発売時は香料を使用していたが、その後の開発を通じて香料を排除し、レギュラーコーヒー本来の味わいを追求し続けた。

 その取り組みの到達点が、1997年に導入した独自の「TTND製法(Triple Temperature Natural Drip製法)」だ。低温、中温、高温の三段階で抽出することで、香りとコクを両立させるこの特許製法により、香りは従来比で約30%向上したとされる。

 そして2017年には「3温度ナチュラルドリップ新製法」の特許を新たに取得し、シャープな香り、コク、キレという軸で品質をさらに研ぎ澄ませた。2019年には低温抽出部分を強化し、トップフレーバー(口に含んだ瞬間に感じる最初の香り)の強度を高めている。