金に困り「重要文化財の仏像」を勝手に売却した住職の悲惨な末路

写真はイメージです Photo:PIXTA

私は東北地方某県に存する東法院の住職だ。しかし現在の私は葬儀や法事に「派遣される僧侶」としてどうにか暮らしを立てている。本書の内容は、私が実際に体験した事実にもとづいていることを仏に誓ってお約束する。※この記事は、松谷真純『葬式坊主なむなむ日記』(三五館シンシャ)の一部を抜粋・編集したものです。ペンネームであり、宗派や寺、派遣会社や登場人物などは全て仮名です。

某月某日 僧籍剥奪

「檀家って、今どのくらいですか?」

「戸田さんって覚えてますか?」

 修行時代の同期・町岡雅道さん(仮名)から数年ぶりに電話がかかってきた。同期の中で今でもつながりがあるのはこの町岡さんくらいのものだ。

「ええ、覚えていますよ。道場を出てから何年か、年賀状のやりとりだけしていましたが、このところそれも途絶えていますけど」

 戸田修道さん(仮名)は、班は違えど、町岡さんと私の修行道場時代の同期で、関西某県のお寺の住職をしていた。

「戸田さん、住職をクビになったみたいですよ」

「どういうことですか?」と水を向けると、待ってましたとばかり、町岡さんが話し出す。

「戸田さん、自分の寺の財産を宗門に無断で売却してしまったんですよ。で、宗門内の審査を受けて、住職を解任され、僧籍まで剝奪されたらしいです」

「お寺の財産というと、仏像か何かですか?」

「重要文化財の仏像ですよ。しかも戸田さんが売った先の業者はすでに転売していて取り返しがつかないって」

 戸田さんや私など宗門内の寺の住職は、法律的には各都道府県の管轄する宗教法人の代表役員である。民間企業であれば「社長」に当たる。ただ、その任命権者は本山であり、その意味では「雇われ社長」に近い。とはいえ、本山から給料が出るわけではないので食い扶持は自ら手当てするのが原則だ。

 寺の土地・建物、庫裡やお堂、お堂の中の仏像や仏具などは住職の私的所有物ではなく、宗教法人の持ち物とされている。ただ、売買契約書に代表者(住職)の記名と印が押してあれば、売買当事者間での契約は成立する。実際、寺の土地建物や仏像を住職が無断で売り払い*、遊興費などにあてたという話はいくつか知っている。

 戸田さんは私の知る限り、真面目な人だった。遊びに使ったとも思いにくい。

「戸田さんにどうしても金が必要な事情があったわけですか?」

 率直な疑問を呈すると、町岡さんが流暢に説明し始める。

「ことの発端は、檀家減少に危機感を覚えた戸田さんに、コンサルティング会社が霊園と納骨堂の経営計画を提案したことらしいんですよ」

 町岡さんの話は次のとおりだった。

 コンサルティング会社は、戸田さんのお寺に「霊園と納骨堂の建設」を勧めた。資金と運営はコンサル会社が紹介する霊園業者が担当し、戸田さんのお寺は宗教法人の名義で形式的な運営主体となる。つまり、運営は霊園業者が行なうかわりに戸田さんはお寺の名義を貸し、2000坪の境内地を提供するという契約だった。そして、戸田さんは霊園業者が銀行から受ける融資の保証人になった。

 ところが、霊園業者は銀行への返済の遅延を繰り返したうえ、経営破綻し、倒産に至った。霊園と納骨堂の建設事業は頓挫した。

 戸田さんには保証人として多額の借金返還義務が残った。その返済に窮した戸田さんは寺の宝を古美術商に売り、それが露見して僧籍を失ったというわけだ。

「戸田さんのところ、檀家が300軒あったんですよ。もったいないですよね」

 町岡さんが言う。わが東法院の檀家はいまや十数軒。それにくらべると相当に恵まれている。そんな戸田さんでさえ、将来に不安を抱き、コンサル会社を頼った*わけだ。

写真はイメージです Photo:PIXTA

「ところで、松谷さんのところの檀家って、今どのくらいですか?」

 町岡さんが唐突に話を変えた。たしかお寺の長女に婿入りした町岡さんのところは相当の大寺だったはずだ。少し盛って言おうかと思ったが、こんなところで見栄を張っても仕方ない。

「このところ減る一方で今では十数軒ほどですよ」

『葬式坊主なむなむ日記――檀家壊滅! 還暦すぎて派遣で葬儀に出かけます』 松谷真純 (著) 三五館シンシャ

 私が正直に内情を伝えると、町岡さんは「うーん」とうなって押し黙った。東法院の収入では食べていけず派遣僧侶に加えて配送のアルバイトまでしていることを言おうかと迷ってやめた。彼に話せば根掘り葉掘り聞かれそうだし、どこかの誰かに話されないとも限らない。

「残念ながら、うちの寺には売れるような“お宝”はありませんけどね」

 重苦しい雰囲気を切り替えたくて少し茶化して言った。反対に彼のところの檀家数を尋ねてみたいと思ったが、それも空しい気がした。

「お互いがんばりましょうね」

 そう言って電話は切れた。町岡さんは私に何を言いたかったのだろうか。

 翌年の元旦、町岡さんから届いた年賀状には、寺院を大規模に改修した旨の報告が記載されていた。

住職が無断で売り払い

残念ながら、こうしたことは定期的に起きていて、この世界では珍しくない。異変に気づいた檀家が騒ぎ出し、それが本山に知れて、にっちもさっちも行かなくなるというのがお定まりのコースだ。

コンサル会社を頼った

多くの住職は世襲で寺を継ぐため、一般企業における経営や財務を学ぶ機会がない。さらに「金の話をするのは下品」「修行者は清貧であるべき」という価値観があり、収益活動への心理的抵抗から、第三者のコンサルを頼る傾向があるものと思われる。