「23区に住めないです」世帯年収1000万円、子持ちアラフォー夫妻が極小1LDKに住み続けるワケ【CFPが解説】

狭い部屋での子育ては当たり前 ※画像/shutterstock
首都圏のマンション価格高騰が止まらない。不動産経済研究所によると東京23区の2025年の新築分譲マンションの平均価格は1億3613万円。不動産調査会社の東京カンテイが昨年5月に公表した中古マンションの平均売り出し価格も東京23区で70平方メートルあたり1億88万円と、1億円超が当たり前の状況だ。
そんなマンション価格の高騰に歩調を合わせるかのように、右肩上がりで値上げが続いているのは賃貸マンションの家賃である。26年2月に発表された不動産情報サイト・アットホームの主要都市マンション家賃データによれば、東京23区の賃貸マンションの平均家賃は30~50平方メートルで17万9106円。ファミリー向けとなる50~70平方メートルの広さでは25万7620円だ。
総務省の家計調査によれば26年2月の2人以上世帯の平均可処分所得は東京23区で59万6981円。30~50平方メートルであれば、可処分所得の3割ほど、ファミリータイプとなる50~70平方メートルともなるマンションを借りれば、平均的な家庭では可処分所得の4割以上が家賃で消えてなくなる計算だ。
家賃高騰のこの時代。子供の出産を機に長年住んできた新宿区内の1LDKから23区内の2LDKへと引っ越そうと思案する中村卓也さん(38・仮名)のケースを今回は専門家と共に検証する。
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昨年9月に念願の第一子となる男の子が生まれたばかりだという中村さんは目下、大きな悩みを抱えている。
「子供が生まれたのを機に今まで妻と5年ほど暮らしてきた新宿区内の1LDKから引っ越したいと考えています。しかし、あまりに都内の賃貸物件が高すぎるので身動きが取れないのが実情です」
現在、中村さんが暮らす新宿区内の1LDKは38平米ほどの広さで、家賃は管理費を含めて月に17万円ほど。近隣で50平方メートル超の賃貸物件を探すと管理費込みで28万円前後になるのだという。中村家は卓也さんと妻の共働き。世帯年収で額面1000万円ほどの稼ぎだ。
「月の手取りは夫婦で60万円ほど。17万円の家賃ならまだ家計の範囲内ですが、それよりも10万円以上高い家賃となると手が出ないのが実情です。お互いの勤務先へも電車1本で行ける現在の部屋は気に入っていたのですが、子供も生まれ少しでも広い家に住みたいので、23区の別の地域へと引っ越そうかと考えています」
家賃を支払うのが惜しいならば、マンションを購入すれば良いという考えもあるだろう。しかし現在、23区内のマンション市場は中古も含めて軒並み1億円超が当たり前。世帯年収で額面1000万円ほどの稼ぎがある中村家とて、おいそれとはマンション購入へと踏み切れないのが実情だ。
また、都内の賃貸マンションはどのエリアも家賃が上昇中。現在、中村家が暮らす新宿エリアから離れたとて、住宅情報サイトを見てみると23区内の賃貸物件では強気の家賃相場が展開されている。
■錦糸町は25万円、板橋でも20万円超、都内の驚きの賃貸事情
たとえば、駅前の場外馬券場を中心に立ち飲み店や居酒屋が軒を連ね下町のイメージも強い墨田区・錦糸町。そこでも50平米台の2LDKともなれば管理費込みで25万円前後が相場となる。
「さすがに高いと思いもう少し、家賃の安いエリアを探そうと思いました。そこで埼玉県との県境でもある板橋区のマンションを探してみたのですが、希望する駅近物件ともなると築20年超の物件でも家賃は20万円ほど。引っ越すとなれば、引っ越し費用に加えて敷金・礼金がそれぞれ家賃の1か月分は必要になりますし、なかなか踏ん切りがつきません」
右肩上がりの賃貸相場。この現象は大都市圏を中心に全国各地で確認されているという。不動産事情に詳しい関係者が話す。
「大阪市内では50~70平方メートルの広さがあるファミリータイプのマンションの家賃平均が13万2579円。大阪市内で働く2人以上世帯の月の平均可処分所得は42万378円ですから、家賃が手取りの3割ほどです。福岡市内でもファミリータイプのマンションの家賃は平均で10万1931円。世帯の月の平均可処分所得が44万9810円ですから、市内で生活する家庭の多くは手取りのおよそ1/4が家賃で消える形です」
前出の中村さんがこう嘆く。
「大学を卒業して散財もせず真面目に働いてきたのに、ファミリー向けのマンションに住むのも難しいなんて……。都内で働いているのに、これでは23区になんて住めないじゃないですか。狭い部屋で子育てをしろということなんでしょうか……」
今後、子供の成長と共に家賃だけでなく教育費など更なる出費が必要になるであろうことが予想される中村家。子供が小さい今、すぐに引っ越すべきなのか。税理士法人アクシア代表社員で、公認会計士・税理士、CFP資格(日本やアメリカなど世界各国・地域で認定されている国際的なファイナンシャル・プランナーの最上位資格)を持つ宮岡秀峰氏が解説する。
■CFPの回答
――住宅を借りる場合、家賃は手取りの25%ほどまでとも言われていますが、その理由と根拠を教えてください。
家賃を「手取りの25%程度まで」と言うのは、法律や公的な厳密基準があるわけではなく、家計を無理なく回すための安全寄りの目安として使われることが多いです。特に子育て世帯は、今後、教育費や医療費、急な出費が増えやすいため、住居費に使い過ぎないよう少し保守的に見ておく、という考え方です。
住居費は毎月ほぼ確実に出ていく固定費で、一度上げると下げにくいですが、教育費、医療費、保育料、時短勤務による収入減など、子どもが生まれると家計の不確定要素は一気に増えます。だからこそ、住居費に使いすぎない“余白”が必要です。
国立社会保障・人口問題研究所の資料では、住宅費が可処分所得の40%を超える状態を「住宅費過重負担」と定義しています。そう考えると、40%に近づく前に余裕を持たせる意味で、25%前後をひとつの目安にする考え方には一定の合理性があると思います。
ただし、これはあくまで目安です。共働きで今後も収入が安定していて、教育費の方針や貯蓄計画がはっきりしているご家庭なら、一時的に25%を超える判断が絶対にNGというわけではありませんが、育休や時短勤務、転職などで手取りが下がる可能性があるなら、今は少し慎重に考えたほうが安心です。
今の東京では25%に収めること自体が難しくなっていますが、だからといって基準を捨てていいわけではありません。むしろ相場が高い今こそ、家賃をどこまで上げるかは冷静に見るべきです。
――現在の都内の賃貸物件事情では、世帯収入の手取り25%以内に家賃を収めるのが難しいのが実情。家賃をねん出するために家計を見直すとしたらどの点を見直すべきでしょうか。
家賃を捻出するために家計を見直すのであれば、まず確認したいのは、毎月ほぼ自動的に出ていく固定費です。たとえば、通信費、保険料、サブスク、車関連費などが挙げられます。日々の買い物を細かく切り詰めても、節約効果は月数千円程度にとどまりがちですが、固定費は一度見直せば、その効果が毎月続きます。まずは家計簿を細かくつけるよりも、「毎月自動的に引き落とされているお金」を一覧にして把握することが先です。
実務的に見ると、見直しの効果が出やすいのは保険料です。特に医療保険や貯蓄性保険については、保障内容と保険料のバランスを一度確認しておきたいところです。次に見直したいのが通信費です。夫婦2人分のスマホ代に加え、光回線、動画配信、音楽配信、クラウド、各種課金サービスまで合計すると、想像以上に固定費が膨らんでいることがあります。さらに、ジムやウォーターサーバー、宅配サービス、有料会員など、解約しないまま続いている支出も見直しの対象になります。月数千円の支出でも、家賃が上がる局面では積み重なると無視できません。
――家賃が高いならば郊外へ引っ越すのもひとつの選択肢になるかと思います。郊外へと引っ越す場合に気を付けるべきポイントを教えてください。
郊外への引っ越しは、家賃を下げる有力な選択肢ですが、「家賃だけ安くなって、生活全体では逆に大変になる」ことがあるので注意が必要です。特に共働きでお子さんが小さいご家庭では、通勤時間が延びることの負担は、お金以上に大きくなりやすいです。家賃が数万円下がっても、通勤定期代、保育園への送迎時間、残業や急なお迎えへの対応、タクシー代や時短家電・外食の増加まで含めると、実質的な負担が増えることがあります。
郊外を検討するなら「家賃差」ではなく「家計と時間のトータルコスト差」で比べるのが大切だと思います。特に重視したいのは、駅距離よりも、保育園・勤務先・スーパー・病院までの生活動線です。郊外で部屋が広くなっても、送迎や通勤が回らなくなれば、暮らしやすさはむしろ下がります。引っ越し先を考える時は、休日の内見だけでなく、平日の朝夕を想定して、「誰が送るのか」「急なお迎えは間に合うのか」まで平日の生活動線を実際にシミュレーションすることをおすすめします。
――お金のプロであるFPの皆さまが賃貸物件を探す際に重要視しているポイントなどがあれば教えて下さい。
FPの立場で物件を見るなら、重視するのは家賃の絶対額よりも、家計として無理なく支払いを続けられるかどうかです。今の収入で払えるかではなく、1年後、3年後も無理なく払い続けられるかを見ています。
子どもが小さい時期は、想像以上に支出が変動しやすいものです。保育料、習い事、家電の買い替え、時短勤務、病気対応など、毎月同じようにはいきません。だからこそ、家賃はできるだけ背伸びし過ぎない水準にしておいたほうが、その後の教育費や貯蓄に対応しやすくなります。

税理士法人アクシア代表社員で、公認会計士・税理士、CFP資格を持つ宮岡秀峰氏 ※提供画像
宮岡秀峰(みやおか・しゅうほう)
公認会計士、税理士、行政書士、CFP資格(日本やアメリカなど世界各国・地域で認定されている国際的なファイナンシャル・プランナーの最上位資格)。税理士法人アクシア代表社員、アクシア公認会計士事務所代表。公認会計士として会計・財務の視点から中小企業支援に取り組むほか、相続・事業承継分野にも幅広く携わる。講演や税務相談の実績も豊富で、会計・税務分野の書籍共著、雑誌寄稿も行なっている。
■【画像】20~30代前半に大人気 “広さ3畳”都心の「極セマ物件」
居室の広さ約5平方メートル(約3畳)――。東京都心の「極狭(ごくせま)アパート」が若者に人気だという。都心部にありながらも6~7万円台という手ごろな家賃帯が人気なのだという。

※写真提供/株式会社スピリタス

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