「残したい社員を20分で選べ」――ツイッター社、イーロン・マスク体制の混乱の中で社員に迫られた“静かな大量解雇”の真相
イーロン・マスクによるツイッター買収劇とその後の混乱を描いた『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ベン・メズリック著、井口耕二訳)。著者は大ヒット映画『ソーシャル・ネットワーク』原作者、ベン・メズリック。本書はメズリック氏による関係者への徹底的な取材をもと、マスクの知られざる顔に迫る衝撃ノンフィクション小説だ。「生々しくて面白い」「想像以上にエグい」「面白くて一気に読んだ」など絶賛の感想が相次いでいる本書。今回は本書の発売を記念し、イーロン・マスク体制下におけるツイッター社の衝撃的なレイオフの一場面を一部抜粋・再編集してお届けする(全2回のうち第1回/第2回に続く)。
ハロウィーンパーティに参加するため、車列に並んでいたツイッター社員・マーク・ラムゼイの元に、突然の着信とともに突きつけられたのは、「20分で残す社員をリストアップせよ」という、あまりに唐突な通告だった。具体的な理由も、人数の目安さえも告げられないまま、上司ジョン・ケイヒルから告げられる“選別”の指示。誰を残し、誰を切るのか。しかも、それを誰にも伝えてはならない――。組織が音もなく崩れていく瞬間、リーダーは何を基準に人を選ぶのか。そのとき、何を感じ、何を失うのか。

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「説明している時間はない」
車内に電子音が響き、現実に引き戻された。ダッシュボードのスクリーンによるとケイヒルかららしい。
マークは、努めて平静を装った。ハンズフリーはやめて電話本体で受けようとポケットに手を伸ばす。ベルがまた音を立てた。
ケイヒルはあわてているようだ。スピーカーから流してかまわない話ということではないのだろう。やはり、本体で取ることにしてよかった。
ケイヒルはあいさつも世間話もなく、いきなり本題に入った。
「説明している時間はない。20分で切らなきゃいけない」
耳を疑った。電話が重い。
「残したい社員をリストアップしろ。いかに優秀かの説明つきで」
「なにを言ってるんだ?」
「そんなのわかるだろう。残したい社員をリストアップしなければならないんだ。どう優秀なのか、そいつがしている仕事がどうして重要なのかなど、説明もつけなければならない」
「スプレッドシートかなにかにか?」
100人近くの部下から、「残す人間」を20分で選べと…
部下は100人近くもいるんだぞ? なのに、残す人間を20分で選べというのか。
部下の大半は5年とか、場合によっては10年もこの仕事をしているというのに。どうにも不出来なやつも何人かはいるし、いなければならないとまでは言えないやつもひとりふたりいることはいる。でも、それ以上は……。
「どのくらい減らさなければならないんだ?」
ケイヒルが口ごもる。ようやく出てきた言葉も、ほとんど意味のないものだった。具体的な数字は知らされていないのだろう。ただ、残したい部下、一人ひとりについて闘わなければならないという。爆弾も落ちてきた。
最高顧客責任者の退任――顧客を失い、収益の急降下は避けられない
「サラ・パーソネットがいなくなった」
最高顧客責任者が辞めたというのか。広告や営業にとっては大打撃だ。サラは、会社の窓口として最大手の広告主とつきあってきて、顧客の受けも評価もすごくよかったのだ。
悪いニュースが続く。ロビンと詳しい話をしたとき、最大手広告主の4分の1ほどが出稿をすべて保留にする模様だと言われたらしい。
部門を統括する経営幹部が切られ、さらに、おそらくは大幅な人員整理をこれからしなければならない。
これでは、奇跡でもなければ、収益ががっくり落ち込むことは避けられないだろう。
「なにも話すな、誰にも」
ふと気づくと、ジーナがこちらを見ていた。会話の半分しか聞こえていなくても、この夜が悲惨なことになろうとしているのはわかったはずだ。
ノートパソコンが車のトランクに入っているので、ケイヒルの言うスプレッドシートを作ることはできる。ただ、ダンスフロアは当面お預けとせざるをえない。
「マネージャークラスに話を伝えて……」
言いかけると、ケイヒルにさえぎられた。
「なにも話しちゃいけない。誰に対しても、だ。私からの連絡も、この件が終わるまではないと思ってくれ」
そんなばかな。ケイヒルとは10年の長いつきあいだし、これほどの大騒動なのに話をしないというのはありえない。
ケイヒルの説明は、なぞめいていた。
パラグらは理由ある解雇となるわけで、管理職なら同じ憂き目にあう可能性がある、だから、マスクチームにはっきり求められた以外の会話はしないように注意したいというのだ。
マークは体が震えるのを感じた。ケープのせいですごく暑いというのに。
(本稿は『Breaking Twitter』から本文を一部抜粋、再編集したものです)