ピンチはガソリンだけじゃない? 電気代に直結する「LNG」が高騰危機 中東依存度わずか10%なのになぜ? 周辺諸国の動きで「価格が跳ね上がる」理由【専門家解説】
石油備蓄の放出スタート ガソリン価格はいつ頃下がる?
中東情勢の悪化を背景に原油価格が上がる中、3月16日、政府は備蓄している石油の放出を始めました。合わせて、19日にはガソリン補助金も再開され、小売価格が1リットル約170円に抑制されるということです。
一方で、ガソリン補助金をめぐっては専門家からも賛否両面の意見が出ています。さらに、ガソリンだけでなく火力発電の燃料となるLNG(液化天然ガス)にも、いま危機が迫っているというのです。
ガソリン価格はいつ頃下がるのか?電気代が急騰する可能性も?ポスト石油戦略研究所・大場紀章代表と、経済産業研究所コンサルティングフェロー・藤和彦氏への取材をもとに解説します。
原油の先物価格が高騰、中東依存度95%の危うさ

現在、原油の先物価格は不安定な動きを見せています。かつては1バレルあたり60ドル前後で推移していましたが、情勢悪化により一時期は119ドルまで急騰し、現在は100ドルを超える水準で高止まりしています(3月16日時点)。
原油輸入の約95%を中東地域に依存している日本。輸送経路の要となるホルムズ海峡は封鎖状態が続いていて、3月20日頃からは日本へ到着するタンカーが大幅に減ることが予想されています。
「石油備蓄」による防衛策と、う回ルートの可能性

専門家らが「戦後最大の石油危機」と表現する現在の状況。こうした危機に備えて存在するのが、国や民間による「石油備蓄」です。現在、日本には民間と国家を合わせて約247日分の備蓄があります。
政府は今回、まずは民間分の備蓄から国内需要の15日分の石油を市場に放出するよう促し、国家備蓄は3月下旬にも1か月分を石油元売り各社に売却する方針で調整を進めています。
国家備蓄は、1か月分(30日分)の量を3か月ほどかけて少しずつ市場に出す手法がとられるのではないか、というのがポスト石油戦略研究所・大場紀章代表の見立てです。

これにより、中東産の原油が入らない間、1日の消費量の約3分の1を補うことができます。残る3分の2については、
▼サウジアラビアの『パイプライン』を利用して紅海から迂回するルート
▼国民による節約
▼中東以外からの輸入拡大によって賄っていくことになるのではないか、ということです。
【原油の国内消費量を賄う方法】※大場代表による
国家備蓄放出:33%
う回ルート:33%
国民の節約:10~15%
中東以外からの輸入拡大:約20%
「脱中東」課題は北米・南米からの輸入拡大

これまで日本が中東の原油に依存してきた背景には、原油の「質」と「輸送コスト」の問題がありました。この現状を変えることはできないのでしょうか。
【中東以外からの原油輸入】※経済産業研究所・藤和彦氏による
▼中東の原油と質が違うカナダ・ベネズエラの原油…精製設備の調整できるはず・したほうが良い
▼中東に比べ質よく高いアメリカの原油…中東危機でアメリカの原油はすでに中東より安く
▼北米・南米から…輸送コストがかかる(細い運河を通るため大型タンカーが通れず、小さい船で分けて輸送することに)
ちなみに隣国の韓国では、政府が輸送費に『補助金』を出すことでアメリカからの輸入を増やし、中東依存度を下げる戦略をとっています。
日本も同盟国であるアメリカなどからの調達を増やすべきだと藤氏は指摘していて、今後は精製設備の対応を含めた「脱中東」のエネルギー戦略が求められています。
ガソリン補助金の再開 安さを実感できるのはいつ?

政府は3月19日から石油元売り各社へ補助金を支給し、ガソリン価格を170円程度に抑えるとしています。しかし、実際に店頭価格に反映されるまでにはタイムラグがあります。石油業界には毎週水曜日に価格改定を行う商習慣があるため、安さを実感できるのは早くても3月26日(木)以降、場合によってはさらにもう1週間先になる可能性があります。
「170円設定」の是非
この補助金政策には賛否があります。
≪大場氏の意見≫
▼元売りに補助を出すやり方は小売りへの価格反映に時間がかかる ▼節約が求められる中でレギュラー170円では「使用抑制」のメッセージにならない ▼価格抑制について、各国からどう見られるか
との懸念を示します。
≪藤氏の意見≫
▼小売りの数は数万件と多すぎる。大手への補助が現実的 ▼補助を良しとするかどうかを決めるのは民意
との見方を示しています。
忍び寄る「LNG(液化天然ガス)」危機の影

心配の種は石油だけではなく…LNG(液化天然ガス)の状況も深刻な影響を及ぼしかねません。
日本は火力発電の燃料の多くをLNGに頼っていて、都市ガスとしても不可欠な存在です。
日本のLNG輸入はオーストラリアが4割を占め、中東依存度は一見低く見えます。しかし、実は周辺諸国の動きがLNG市場を直撃するというのです。

【日本のLNG輸入】出典:財務省貿易統計
中東依存度:10.8%
ホルムズ依存度:6.3%
大場氏によると、中東のLNGに大きく依存している韓国や台湾が、ホルムズ海峡封鎖を受けて短期取引市場で買い増しに動けば、価格が一気に跳ね上がるということです。過去にはウクライナ侵攻の際に価格が数十倍に膨れ上がった例もあります。
現在の日本の電気料金は市場価格を反映する仕組みになっているため、世界的な争奪戦が起きれば、日本の電気代も急騰する恐れがあるのです。
1人1人ができる対策は「エネルギーの節約」

今回の危機は、単なるガソリン価格の問題にとどまらず、日本のエネルギー供給構造の弱点を浮き彫りにしました。電気代の急騰は、一般家庭でも今後大きな負担となる可能性があります。
過度に不安を抱く必要はないものの、楽観視できる状況ではないようです。政府による備蓄放出や補助金といった対策が進む一方で、私たち1人1人が電気やガソリンの節約を意識することが、エネルギーの安定供給に欠かせないのではないでしょうか。