なぜホンダは最大2.5兆円の大損失を出すのか、社長交代の可能性は?

オンライン緊急会見を行った三部敏宏・ホンダ社長 Photo:HONDA
ホンダが今期の決算で「最大6900億円の最終赤字」になると発表した。直接的な原因は、新モデルの開発・生産中止に伴う資産を処理するためだ。損失の総額は、現時点で最大2兆5000億円。いったいホンダに何が起きているのか。サプライヤー約1万社に黒字化への道筋を示せるのか。就任6年目を迎える三部社長体制の、今後の展開を予測する。(佃モビリティ総研代表 佃 義夫)
「断腸の思い」ホンダ・三部社長
「脱エンジン」の誤算認める
「まずは止血する。将来に負債を残さないため、断腸の思いで決断した」と緊急オンライン会見で語った三部敏宏・ホンダ社長。その語り口は淡々としていたが、内心は忸怩たるものがあろう。
ホンダは3月12日、2026年3月期の連結最終損益が最大6900億円の赤字になる見通しだと発表した。従来予想は3000億円(前期比64%減)の黒字だったので、一転して最大9900億円も下振れることになる。
三部氏は21年4月の社長就任直後、自らを「激動に強いタイプ」と紹介。前任の八郷隆弘体制での調整局面から、「攻めのホンダ」へ変わる象徴として、「2040年に全新車をEVとFCVだけにする」と「脱ガソリン」を掲げてきた。※EV(電気自動車)、FCEV(燃料電池車)
だがこの日、脱エンジン目標そのものは諦めないが、2040年は「達成が困難と考えている」と言及。北米市場向けの3車種、次世代EVシリーズ「HONDA 0(ゼロ)」の「サルーン」(セダン)と同SUV、さらに上位ブランドである「Acura(アキュラ)」の「RSX」の開発中止を発表した。
連結最終損益が最大6900億円の赤字とは、経営危機の日産自動車と同等のレベルだ。ホンダは1957年に東証に上場して以来、初の赤字転落となる。逆にいうと、トヨタ自動車ですら赤字となったリーマンショックの時でも、ホンダは赤字を回避できた。
そんなホンダがなぜ今、巨額赤字を計上するのか。いったいホンダに何が起きているのか。
まず背景には、世界的にEVの普及が鈍化したことが挙げられる。特に米国のトランプ政権による環境政策の変更が、北米市場におけるEVへの逆風をさらに強めた。これが大きな痛手となり、米ゼネラル・モーターズ(GM)とのEV・FCVの協業も断念した。
しかしEVが普及する中国でも、現地メーカーはおろか他の日系メーカーにも負けている。ホンダの中国における新車販売(25年)は64万台(前年比24%減)で、ピーク時の4割ほどに落ち込んでいる。
この点についてはホンダも認め、「新興ライバルと比べてバリューフォーマネーのある製品を提供できず、競争力の低下を招いた」「変化に柔軟に対応できなかった」と反省の言葉を述べている。なお、ASEAN地域についても似た状況に陥っている。
最終赤字の直接的な原因は、こうした状況を踏まえた開発・生産中止に伴う有形・無形資産を減損処理するためだ。損失の総額は、現時点で最大2兆5000億円。このうち1兆3000億円の損失を今期の見通しに追加計上する。
つまり今期に続き来期(27年3月期)も最大1兆2000億円の損失を計上する見込みであり、極めて異例の事態といえる。
ただし兆候はあった。第3四半期(4~12月)決算の発表時点(2月)で、四輪事業の営業損益が1664億円の赤字となったことだ。
「明らかにEV市場が鈍化している。電動化戦略の見直しを急ぐ」「電動化戦略は、白紙に戻して大きく舵を切る必要がある」とこの決算で貝原典也・ホンダ副社長は語っていた。今思えば、この言葉は対外的な“前振り”だったといえるだろう。
米国や欧州各国でEV政策の修正が進んでいたことは明らかだった。この期は、EVに関連する一過性の費用として営業利益ベースで2671億円のマイナス影響を計上した。北米でGMと共同開発したEVを24年に発売したが振るわず、この減損損失も計上した。
一方でこの期は、二輪事業の営業利益が5465億円と過去最高を記録した。好調な二輪が、不振の四輪を支えることで、ホンダ全体の26年3月期見通しは純利益3000億円を据え置いたのだ。
三部体制は5年を経過した。四輪車事業をどのように立て直していく気なのか。
すでに出している四輪事業の改革案としては、開発機能を本田技術研究所に再び移す。20年に四輪車の開発を効率化するために本社に吸収していたが、創業者の本田宗一郎氏がつくった同研究所を尊重し、原点回帰する。
注目は、4月1日付の組織・人事で三部社長が新設の「企業変革責任者」に就くことだ。そして、本田技術研究所社長には秋和利祐執行役四輪開発本部長が就任する。秋和氏は、かねてホンダ次期社長の有力候補だ。元々ホンダの社長は代々、この研究所の社長から選ばれてきた。
5月には新たな方向を示すロードマップを発表する予定だという。一方で、6月の株主総会では三部体制下の経営責任が追求されることも必至。ポスト三部の去就にいっそう関心が高まることにもなろう。
先に述べたようにトヨタもリーマンショック時(09年3月期)は、4370億円の最終赤字を出した。しかし翌年の決算では、2094億円の最終黒字を確保してみせた。
すでに来期の巨額損失も見込んでいる中で、これほどは上手くいきそうもないが、今回の決断を下したホンダ経営陣の、今後の奮起に期待するほかない。まさに背水の陣で、四輪事業の黒字化への道筋を示せるか。ホンダの直接的な取引先(サプライヤー)約1万社も固唾をのんで見守っていることだろう。
【以下は公開されているホンダの会見スピーチ原稿】
佃プロフィール